あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

第251回 < フィンテック関連投資について >

今週は米国出張に来ています。投資対象ファンドの定例の投資家総会への参加、当社提携先との打合わせ、さらに当社が運用しているファンドに投資していただいている米国機関投資家への訪問等が主な目的です。いくつかのミーティングを通じて、市場参加者が足下の米国金融業界についてかなり強気であることを感じました。結果、これまでの米国や、現在の日本、欧州の金融緩和の影響によって溢れ出したグローバル投資家の資金は、規制強化が進む米国の金融業界に流れ込み、結果として様々な歪みも出ているようにも見えます。

溢れる資金が限られた投資対象に集中する結果、個別銘柄の株価が大きく上昇するのは当然ですが、買収の際に生じるレバレッジも相当上昇しています。そのほかにも特徴的だったのは、フィンテック(Fintech:金融とテクノロジーの融合を示す造語)バブルというような現象です。私どもの運用するファンド・オブ・ファンズの投資対象ファンドの一つは、金融ビジネスに特化したバイアウトファンドです。その投資家総会でも話題の一つとして、最近流行のフィンテックが取り上げられ、また、彼らのファンドからもこの新分野に対する投資が行われていました。

金融とテクノロジーの融合は面白い領域です。金融業はその公共性から規制を受けやすい業種です。これまで、オンラインバンク、オンライン証券、オンライン生命保険が登場してきましたが、従来型の規制業種としてのビジネスモデルの領域内での発展だったといえます。それが、今回のフィンテックブームで起業家、投資家が期待しているのは、マイクロファイナンス、ダイレクトレンディングに代表されるような従来型の銀行などの規制金融業種を介さない(可能性のある)新しいビジネスモデルです。その発展は、すでに規制が隅々まで整備されている日本やアメリカよりは、金融当局の規制が緩やかな、あるいは金融当局が存在しない新興国で急速に広まっているようです。

しかし、今回のブームに関して、気になる点が幾つかあります。フィンテックと称するビジネスモデルの中には、既存の金融機関からの資金調達が難しい法人・個人が直接資金の貸し手にアクセスできる手段を提供するものが多くあります。日本では消費者金融業の領域に類するものも、各国で多くあらわれそうです。この際、借り手のモラルハザードの問題が見られるようになると考えられます。ビッグデータを活用して、無数の借り手の特性を把握したうえで貸し出し条件を決めるような「技術」も開発されています。しかし、期間の限られた記録に基づいた条件設定は、金融危機のような特殊な環境下で脆いことは、かつてのサブプライム問題で経験しています。更に、金融とITのビジネスは、過去の経験上、それぞれに資金が流れ込みやすく、したがって容易にバブル化しやすい領域です。

今回のフィンテックブームは、金融業界に身を置く人間として、避けては通れない現象です。ニューヨークで参加した投資家総会の中で、金融業40年の業界の泰斗ともいえる投資家は、「フィンテックの中で、テクノロジーを活用した決済業務の多様化は歓迎するが、ダイレクトレンディングをはじめとする貸金業の多様化は危険な領域だと思う」と述べていました。金融の公共性と消費者の利便性を満たしながら金融機関の存在が変化していく過渡期に、いかにモラルを維持しながら各ビジネスが発展していくのか、注意深く見ていきたいと思います。

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