あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

第215回  < 米国投資における税制のインパクトについて >

今週は久しぶりの米国出張に来ています。いくつかの目的はありますが、現在の米国における市場動向について調査をすることも重要な課題です。特に、10月は米国をはじめとして、各国の金融市場が大きく変動しています。こちらに来て、 ミーティングの合間に金融関連の専門誌であるWall Street Journalを斜め読みしていると、“The market has been a bloodbath for hedge funds”という刺激的なコメントが出ていました。この10月は2011年以来の大きな損失にヘッジファンドが苦しんでいるという内容でした。

確かに、いくつかの理由があって10月は米国のヘッジファンドが苦戦しています。市場が急落し、その後ボラティリティが上昇していることで、この流れに付いて行けていないファンドがあることも一因ですが、主な理由の一つに米国の税制の変更がありました。米国の大手有力ヘッジファンドが軒並みポジションを大きくとっていた、ある買収、合併を期待するディールが10月20日に正式に破談となった理由は、米国政府が9月22日に発表した税のルール変更でした。

これまで、米国拠点の企業が海外、たとえば英国の企業を買収し、買収先企業に本拠地を移すことによって有利な税率を享受する“Tax inversion” といわれる取引が盛んに行われていました。今回、米国の製薬会社AbbVie社が英国のライバル会社であるShire社を550億ドルで買収する予定となっていたのは、買収によって同社が拠点を米国から英国に移すことで、現在の実効税率を大幅に引き下げることができることが一番の要因でした。米国政府が同様な手法による税率の軽減を禁じるルールを課したことで、今回の買収は破談となり、買収が期待されて上昇していたShire社の株価は破談発表により28%も下落しました。

同様の買収、合併を予定していた他の会社の株価も大幅に下落するなどして、ヘッジファンドに人気の買収・合併裁定取引戦略をとっていたところは、大きな損失を計上することになりました。このように、税制を中心とする制度変更から投資戦略が大きな影響を受けることがあります。ヘッジファンドに限らず、投資家はこのような制度変更の可能性を認識して投資を行わないと思わぬ痛手を被ることになります。今回のヘッジファンドの損失は、制度変更という特殊事情によるものであり、市場の大勢がこれによって決まるものではありません。しかし、時として、このような事象が引き金となって、市場に混乱が生じることもあると思われます。米国出張初日の出来事でしたが、これから数日、現地のリサーチを進め、新たな問題の芽が育っていないか、見極めていきたいと思います。

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