あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

第205回  < バリュー投資について >

日本株式市場について、ヘッジファンド運用者をはじめとする海外投資家と議論する機会が増えました。記憶を辿ると、少なくとも過去7-8年では最も投資家が日本株式に注意を向けている状況ではないかと思います。但し、昨年までの、黒田日銀総裁の金融政策と円安による底上げ効果は一段落し、今年に入ってからは、アベノミクスの成長戦略の成否について待ちの姿勢が目立つようになった気がします。投資行動としては、流動性の高い大型株式の中でも、円安効果の恩恵を受けやすい銘柄や、金融、不動産などの中でもわかりやすい銘柄、そして、インデックスをそのまま買うような、いわゆるマクロ環境の変化に一時的に賭けるタイプの投資家が多かったように思われます。それらの投資家の多くは、必ずしも長期投資家ではなく、十分な収益が出れば短期でも利食いによって資金回収する傾向があります。

安倍政権下での成長戦略も、法人税減税、GPIF改革や経済特区の設置等があがっており、それぞれ、日本経済にとってプラスの影響を与えるものだとは思われますが、海外投資家などから見ると透明性とスピード感に欠けるという評価なのでしょうか。しかし、その中で、日本企業の「割安性」に注目して投資を検討している海外のヘッジファンドや投資家の数が増えているという印象を受けています。ダニエル・ローブ氏が率いるサード・ポイントという投資会社は、ソニーやソフトバンク、IHIといった大型の会社に投資を行い、日本でも存在感を示し始めましたが、ローブ氏自身、彼の投資スタイルを「バリュー投資」と位置付けています。彼の言う、「バリュー投資」とは、単純な企業の時価総額の観点で見るのではなく、法律、規制や財務状況の分析によって当該企業の本質的価値が他の投資家に見つけられない状況で「割安」に放置されている企業への「オポチュニスティクな投資」と規定しています。

「バリュー投資」について考えるならば、バークシャー・ハザウェイ社を率いるウォーレン・バフェット氏の投資哲学について触れる必要があるかもしれません。米国のバリュー投資の太祖で、バフェット氏の師匠ともいうべきベンジャミン・グラハム氏は、バリュー投資を指して、「バリュー投資は、企業の本質的価値と比較して不当なほど安い株式への投資である。本質的価値の算出には万人向けの方程式があるわけではなく、企業の基礎情報の調査によって推計されるものである。その価値は、ほとんどの人にとっては認識されていない。」と説いています。バフェット氏は、更に長期投資の重要性を説いています。「短期的には市場は人気投票のような動きをするが、長期で見れば秤であり価値を正確に反映する。」意訳ですが、バフェット氏にとっては、投資対象から上がる利益こそが投資のリターンの源泉であり、市場における(値上がり益)キャピタルゲインが投資の主目的ではないと言えるかもしれません。

我々が、割安銘柄を探す際には、PER、PBR、EV/EBITDAといった、会社の財務指標を目安にするのが近道ですし、単純な割安株買いも一定期間リターンを得る投資手法になりえます。しかし、上述の投資家に見られるように、常に高い収益率を上げるための「バリュー投資」には、長期間有効な投資哲学があり、それを積上げられるだけの忍耐と資産が必要といえます。さて、冒頭申し上げた通り、バリュー投資家があらためて日本に目を向け始めた昨今、彼らはどのようなアプローチで日本株に投資を行うのでしょうか。日本にも2年前ほどではないにしろ、PBRが0.5を割る銘柄が豊富にあります。また、長期投資から得られる利益によってその投資に見合うリターンを回収できる銘柄として、PERやEV/EBITDAを見ることである程度の目安が出来るかもしれません。しかし、過去に割安銘柄が今より豊富にあった日本における「バリュー投資」の難しさは、割安銘柄が割安なまま放置されてしまうことにありました。サード・ポイントに代表される投資家は、自らの投資を通じて、また、企業経営者や外部に対する働きかけ、現在の株価と当該企業の本質的な価値の間にある「バリューギャップ」を修正する投資行動を行うことに特徴があるといえます。これが、日本市場にどのような影響を与えるのか。今後の日本における「バリュー投資家」の動向に注目したいと思っています。

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