あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

第411回 、412回 統合版 < 2023年4月版 金融システムレポートを読んで > 

日本銀行が公表している金融システムレポートは、日本における金融システムの安定性評価と課題についての金融関係者とのコミュニケーションを目的として年2回、4月と10月に公表されています。本コラムでは2017年から公表時にレポートの内容を取り上げ、考察を加えています。今回のレポートでは、特に金融システムの潜在的な脆弱性と海外金利上昇が金融機関のバランスシートに与える影響について述べています。 

過去5年間のレポートと読み比べてみると、直前の3月に米国で銀行破綻が相次いだことで、日本の金融システムに対してテールリスクへの警戒感が滲んではいますが、これまで同様、日本の金融システムを健全かつ頑健と評価しています。その背景として、企業のデフォルトが低位抑制されていること、潤沢な手元キャッシュと、金融機関における低い海外貸出の信用リスク、外貨金利リスク量の減少傾向等の要因を挙げています。 

また、米国における金利上昇に伴う逆イールド状態の継続や、リーマンショック型の対外的なショックを前提としたストレス・テストを実施した際、現在の金融機関のバランスシートはストレス耐性を持っており、金融システムは頑健であると結論されています。2022年度時点の各銀行の自己資本はピーク時からは低下しているものの、自己資本比率は概ね10%を超えていること、また、貸出残高の増加や経費削減を背景にコア業務純益が改善傾向にあることも損失吸収力が維持されている背景にあります。 

このような状況を反映して、日本の金融機関に対する3月に起きた米銀破綻の影響は軽微でした。クレディ・スイスのAT1債の価値がゼロになったことが大きく取り上げられている中、日本の銀行が発行するAT1債は比較的堅調であり、事件後に新規発行も行われています。レポートの中でも、シリコンバレー銀行のバランスシートの特殊性が分析され、また日本の銀行との相違が指摘されています。例えば、国内金融機関は、現在の有価証券評価損がすべて実減損となった場合でも、それに耐えられる資本基盤を有していることや、銀行の資金調達、つまり預金が小口個人の粘着的な性質を備えており、今回のような急速な預金流出が想定されにくい点も強調されています。 

しかし、米国では昨年から始まった急速な金利上昇の影響を受けて、今年3月にシリコンバレー銀行、シルバーゲイト銀行が破綻しました。今月に入ってもファースト・リパブリック・バンクがJPモルガンに救済買収され、パックウェスト・バンコープの株価が大幅安になるなど地銀の破綻や問題表面化が相次いでいます。また、スイスではクレディ・スイスがUBSに救済買収される事態も起きており、あらためて日本の金融機関の健全性や金融市場の状況を注視する必要があるように思われます。

本レポートでは、日本の金融機関と金融市場が総じて健全であると評価していますが、金融機関が直面しているリスクとして以下を挙げています。
【1】デフォルトリスクの高まり:コロナ禍による実質無利子融資の元利返済が本格化する中、一部の零細企業でのデフォルトが増加。
【2】海外貸出の大口化によるリスク上昇:海外の財務レバレッジが高い企業群に対する貸出の集中が進んでおり、景気減速時にデフォルト確率が上昇する可能性。
【3】金利リスク:外貨・円貨ともに金利リスク量の減少が進んでいるものの外債の逆鞘リスクが顕在化している金融機関がみられます。特に、有価証券の評価損が維持される中では、銀行の益出し余力が低下することで損失吸収力などストレス耐性が減退する可能性が考えられます。
【4】不動産関連貸出への依存度の高まり:国内銀行の不動産業貸出しの残高は2022年12月で約96兆円と過去最高の水準を更新しており、金融機関の不動産関連ビジネスへの依存度が高まっています。

日本の金融市場、金融機関が、上述のようなリスクをはらみつつも健全であると評価されているのは、日本が安定した低金利政策を継続しているためと言えます。しかし、コロナ禍による実質無利子融資や、不動産業への貸出増加を背景に、日本では民間債務が増加しています。米国金融機関の一連の破綻や混乱にみられるように、日本でも金利が上昇するような局面では米国で起きたような事態に発展することは想像に難くありません。そのため、金融機関の損失吸収力が十分に高い局面でしか日銀は金利政策正常化政策を本格化できないと思われます。

現在、市場参加者はグローバル市場における日本の相対的な投資魅力度を「金利の水準及び方向性」と「政治的な安定性」で判断していると思われます。日銀の植田新総裁もこの点を十分に理解したうえで、今後金利正常化へ向けての難しい舵取りを行っていくことになりそうです。私どもも、当局の金利政策についてこれまで以上に注目していく必要性を感じています。

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