あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

第292回 < 今投資家が考えるべきこと(2) -米国金利上昇の影響- >

2018年2月5日の米国株式市場は一日の下げ幅としては過去最大となりました。良好な雇用統計の結果を踏まえ、また、足下の物価の上昇からインフレに対する警戒感が出てきた結果、米国長期金利が前週に4年ぶりの水準まで上昇したことも一因と見られます。米国の良好な雇用状況や緩やかな物価上昇トレンドを考慮すると、現在想定されている2018年の3回程度の利上げは既定路線となり、当面は、今回のような金利上昇による資産価格の変動率上昇が起き易い環境にあるとみてよいかと思われます。

過去の傾向を見ると、物価上昇、政策金利上昇にあわせて長期金利が上昇した後に株価調整が始まっています。この価格調整局面には幾つかの理由があると思われます。ひとつの理由としては、金利上昇によって金融資産の評価額が減少することがあります。なぜでしょうか。例えば、不動産をはじめインフラ事業や企業など、中長期にキャッシュフローの見込める投資対象の価値を評価する際には、ディスカウントキャッシュロー分析(DCF)が行われることが多くあります。将来のキャッシュフローを現在価値に引き直した合計を現在の資産価値とみなすこの手法において、無リスク金利、つまり国債利回りが大きな役割を果たします。計算上の現在価値は金利が高ければ小さくなり、金利が低ければ逆に大きくなります。現在の不動産価格の上昇は、低金利による有利な金利によるレバレッジの高さばかりでなく、低い金利で将来のキャッシュフローを引き直すことで正当化されている現在価値の存在もあります。その計算の変数になっている金利が上昇すれば、計算上の評価額が目減りする仕組みです。個人投資家にとってあまり馴染みのない話に聞こえますが、多くの資金を動かす機関投資家の投資判断には大きな影響を及ぼします。

次に、長期金利の上昇が一服したところでは、投資家が安全な金利商品である米国債などに株式などのリスク商品から資金をシフトさせるため、株式などから資金が流出しやすい状況になることです。特に米国の国債市場をはじめとする金利商品は、他のリスク資産との対比において残高、流動性が巨大であるため、資金のローテーションが起きると大きな価格移転が長期のトレンドを伴って起きる傾向があります。この動きは、前述の金利上昇による計算上の現在価値の減価などより多くの投資家にとってよほど分かりやすいため、インパクトも大きく長く続く可能性があります。
上述のような金利上昇が金融商品の価格下落を引き起こすプロセスは、経済学の教科書的な発想とは必ずしも相容れません。一般的には、景気が良くなることで購買力が上昇し、資金需要が高まることで金利は上昇します。また、将来的な物価上昇が予見される過程で人も企業もおカネを使うため金利が上昇します。したがって、米国をはじめとする各国景気が良好で、これまでの価格上昇が実際の需要に裏打ちされたものであれば、潜在成長率、言い換えれば自然利子率の上昇に沿った政策金利の上昇は、資産価格の下押し要因にはならないはずです。

しかし、昨今の世界が繋がったグローバル経済において、世界中の自然利子率、潜在成長率が上昇しにくい状況で、特に前回金融危機の2008年以降の強烈な金融緩和を背景に、必ずしも実需を伴わない強制的な金融資産価格の上昇が起きてきました。今回の米国金利引上げが同国の金融政策の正常化をもたらすものだとしても、これまでの歪んだ資産価格の調整が起きることは避けられないものと考えています。その影響が向かいやすい先は、これまでの数年間で金融緩和の影響をもっとも受けやすかった資産クラスであろうと予想できます。

今年以降、金利水準の変化とともに金融資産価格の変動率の高まる局面が増えることになるものと思われます。英国のEU離脱交渉、日本の総裁選、米国政権の不安定な状況、中東をはじめとする地政学的なリスクの顕在化など、投資家にとって年後半まで気の抜けない状況が続きます。仮想通貨の混乱で幕を開けた2018年ですが、個人投資家といえども投資対象の本質的な資産価値と現状とのギャップに気をつけながら、長期の資産形成とは何かについてあらためて考えさせられる年になると考えています。

モバイルバージョンを終了