白木信一郎の「投資運用苦楽」

第274回 < 米国株式ロングショート戦略の有効性 >

米国のダウ平均株価指数を見ると、前回金融危機後の2009年3月に6,500ドルを割る安値を付けた後、現在の約21,000ドルまで、約8年間の上昇相場が続いています。米国市場の過去を振り返ってみると、1987年のブラックマンデー以降、2000年のITバブル崩壊まで、必ずしも経済環境と完全に一致しない長期の上昇相場が極めて長期間続いたことがあったので、前例がなかったわけではありませんが、それでも異例の長さと言えます。

これだけ長期の上昇相場が続く中、究極のアクティブ運用者ともいうべきヘッジファンドの多くは株式インデックスを上回るパフォーマンスを出せず、パッシブファンドが隆盛となっています。高い手数料体系への批判もあります。従来から、パッシブ運用とアクティブ運用ではどちらが優位かという議論はありますが、直近の状況を重視すれば、軍配はパッシブ運用に上がっていると思えます。ETFの出現や低コスト競争の様相もあり、投資家にとって低コストのパッシブ運用が投資の柱になることについては異論が出にくい状況です。個人投資家を中心に長期積立投資の流れが鮮明になる中、低コストであることは重要なポイントになりますし、運用者のスキルに依存するアクティブ運用は投資の選定が難しいという点でハードルがあります。

しかし、現在の長期間の先進国による超低金利政策による資産価格上昇のゆがみはどこかで修正されることになります。米国においては金融政策がやや引締めの方向に動き始め、長期金利もいずれは上昇することになると思われます。また、世界的な資金余剰の向かう先が、収益、利益の裏づけのないフィンテックをはじめ様々な先進分野の未上場企業に向かっています。高い成長性を期待しての投資ですが、先行きのわからないベンチャー企業も数多く存在します。米国では、シリコンバレーをはじめ、特に未上場のIT企業への投資が盛んで、それらの投資が米国のイノベーションを牽引してきた経緯はありますが、随所に行き過ぎた状況もみられるようになりました。

たとえば、グーグル、フェイスブック、アマゾン等、短期で巨大な時価総額に成長した企業に投資を行ったベンチャーキャピタルには巨額な投資家資金が流れ込み、第二のフェイスブックを探して、日々多くの投資が行われています。結果として、収益、利益の見込みの立たない企業への青田買い的な投資が嵩み、上場前にして既に非常に高い市場評価がついているケースが散見されるようになりました。最近、面談を行った米国の株式ロングショート運用者は、ショートサイドに強みをもっています。もともと、大手のベンチャーキャピタル、PEファンドの運用のキャリアから上場株を扱うヘッジファンド運用者に転向した方で、シリコンバレー近くに拠点を置き、西海岸のテック企業の情報に精通しています。彼らが空売りする銘柄は、上場時あるいは上場後に、FAT、FADE、FRAUDの状況にある企業だと話していました。

上場した企業の今後期待される収益、利益以上に市場で高い評価を受け、実態以上の高値で上場したケース(FAT)。もともと高い収益と成長力を誇っていた企業が、技術革新に付いていけずに市場での優位性を失い、市場シェアを失っていくケース(FADE)。上場した企業が何らかの瑕疵を持っていることに投資家が気づかずに高い時価がついているケース(FRAUD)。これらの企業は、遅かれ早かれ市場の評価を失い、株価が下落することになります。これらの空売り対象を見極めるためには、高い専門性と調査能力が必要で、他の運用者に模倣されにくいエッジがあるように思われます。

長期の上昇相場から、投資家の目がパッシブ運用に向く中で、長期資産形成と両立するアクティブ運用も存在すると考えています。投資家本位の運用姿勢、手数料の妥当性、持続可能性、情報開示など、株式ロングショート戦略をはじめヘッジファンドといわれる運用者を選定する際に考慮するべき項目は数多くありますが、長年これらの投資と向き合ってきた経験をいかし、私たちのお客様によいファンド、サービス、情報のご提供を続けていきたいと思います。