第429回  < 半導体の基礎 >

今年2月に世界最大手の半導体メーカーであるTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)が熊本第1工場を開所したことが大きくニュースで取りあげられました。また、足下の日経平均株価は、半導体製造装置大手の東京エレクトロンや、マイクロプロセッサ製造大手のアーム社を傘下に持つソフトバンク、パワー半導体を手掛ける富士電機のみならず、軒並み半導体加工関連メーカーの上昇に支えられていることから、多くの人々が半導体というキーワードに着目したように思われます。あらためて注目を集めている半導体の基礎的をおさらいしておきたいと思います。

そもそも半導体とは、ケイ素やゲルマニウムに代表されるような、金属などの導体とゴムなどの絶縁体の中間の抵抗率を持つ物質を指しています。これらの半導体の導電性が電流、電圧、光等によって変化する性質を利用して、電子部品として増幅機能を有する半導体素子であるトランジスタが開発されました。それまで計算機などの論理回路の製造に利用されていた真空管に代わり、トランジスタが実用化されたことで小型のCPUが誕生し、パソコン、スマートフォンの発展につながるのみならず、現在のテレビや自動車等の高性能化に役立っています。

半導体の特性は19世紀前半以降、徐々に判明していましたが、真空管に代わって実用化されたのは20世紀、1947年にゲルマニウムを使ったトランジスタ(半導体増幅器)を米国AT&Tベル研究所でウィリアム・ショックレー等が発明した以降のことです。その後、テキサス・インスツルメンツ社が半導体ビジネスを開始、1954年にはトランジスタラジオが発表されました。その後の半導体ビジネスの拡大は目覚ましく、1957年に1億ドル産業となった後、1964年には市場規模が10億ドルを超えたと言われています。その頃、インテルの共同創業者となるゴードン・ムーアが提唱した「ムーアの法則」通り、集積回路(半導体チップ)あたりのトランジスタ部品数が毎年2倍(1975年には2年ごとに2倍と修正)に増加し、トランジスタの微細化が進むことになりました。

半導体装置の微細化のスピードによる影響は凄まじく、1971年にインテル社が4ビットのマイクロプロセッサを開発したときは、トランジスタが2300個含まれていたものが、この原稿を書いている当日のニュースでNVIDIA社が2080億個のトランジスタを搭載したGPU(画像描写時に必要となる計算処理を行う半導体チップ)をリリースしたとあります。このように1950年代以降、半導体製造技術の発達は半世紀以上継続しており、技術進歩に貢献しながら私たちの生活に大きな影響を与え続けています。

様々な電気製品に内蔵されている集積回路は半導体チップとも呼ばれ、半導体素子とともに微細化が進んでいますが、その過程で様々な周辺技術が開発されビジネス化されています。微細化加工に用いられるレーザー技術については前に本コラムで量子論を取り上げた際に触れましたが、それ以外にも多数の技術が使われています。そして、その製造プロセスになくてはならない技術の一つが化学品関連技術です。半導体の原料となるシリコン加工は分かりやすい一例ですが、それ以外にも多数あります。例えば、現在のトランジスタはシリコンの表面に微細な回路を描くことで微細化が進んでいますが、その回路はフォトレジストという化学薬剤によって描かれています。この化学薬剤の製造の大半が日本製であることは一般には知られていないように思います。

このように、半導体は半世紀以上を経て驚くほどのレベルでの微細化が進み、様々な電気機器の性能を向上させています。その微細化、製造を支えている様々な周辺技術も進化し、大きなビジネスと化しています。今回のTSMCの熊本工場の開所のニュースも、これらの背景を知ったうえで見ることでより面白く、興味深く感じられるかもしれません。

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