第211回  < BDC (ビジネス・ディベロップメント・カンパニー) について >

前回のコラムでMLPについて触れましたので、続けて米国の高配当の投資対象であるBDCについても述べてみたいと思います。現在、平均8%以上、高いもので12%の配当利回りを提供する上場BDCは、仕組みは上場REITと似た形になっています。REITが不動産に対して投資をするのに対して、BDCは未上場の中小企業やスタートアップ企業に対する出資や融資を行います。投資や融資から得た収益の90%以上を配当としてBDCの投資家に支払うことでREITと同様に法人税が減免されています。したがって、通常の企業と異なり、高い配当利回りが期待できることになります。BDCからの出資や融資に対する中小企業からのニーズが高まっている背景には、米国銀行の貸出スタンスの変化が挙げられています。

2008年のリーマンショック以降、米国の銀行が軒並み、中小企業への融資に対して慎重化、保守化の方向へ舵を切り、その傾向は現在まで続いているようです。その中で、小口の融資、出資にも対応し、プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)やベンチャーキャピタル(VC)に似た特徴を持つ、BDCは貸し手としての存在感を高めています。また、PEファンドやVCは、その投資家に対して長期のコミットメント(通常10年以上)を求め、その投資家層が超富裕者層や機関投資家に限定される一方、上場BDCは、広く一般の投資家が株式を通じて投資できる仕組みになっていることも特徴です。但し、その市場規模は、他の高配当商品であるREITやMLPと比較すると、まだまだ限定的です。もっとも、利回り面において、現在では圧倒的にREITやMLPを上回っているため、投資対象としても徐々に注目を集めています。

日本国内においては、上場インフラ投資法人が整備される方向など、将来的な展開は期待できるかもしれませんが、現在はBDCやMLPのような上場商品は見られません。その意味では、前回も書きましたが、米国金融市場の懐の深さには感心させられます。日本でも米国の上場BDCに投資対象を特化した投資信託が金融商品として登場し始めましたが、まだ、一般投資家にはそれほど認知されていないようで、残高も低迷しているようです。また、足下では、軟調な株式市場の影響で上場BDCの価格も軟調に推移していることから、積極的なアピールは難しいのかもしれません。しかし、今後、脚光を浴びるであろう資産クラスだと筆者は考えています。

リスクとしては、BDC自身が保有している中小企業の融資や株式の価値が急落する可能性があります。米国における中小企業の倒産確率が上昇し、融資先の一部が倒産するケースでは、資金回収ができなかったり、遅れたりすることが想定されます。もっとも、BDCの場合、融資は返済の優先順位が高い所謂シニア・ローンやシニア・デッドといわれているものが大半を占めることから、倒産があったからと言って、一概に回収が出来なくなるわけではありません。しかし、金融危機が起きたり、景気低迷期が長引くようなケースにおいては、株式市場自体が大きく下落することも考えられます。その場合には、高い配当収益を出し続けていたとしても、上場していることの影響を受け、投資家の需給によって上場BDCの価格自体が低下することも考えられます。

最近、一部の機関投資家や運用者、証券会社の担当者に対して、BDCに関する質問をするようにしています。金融市場の前線にいる人々がこの新しい投資対象をどのように見ているか、あるいは見ていないのかを知るためです。結果として、今のところ、BDCにそれほど注目している人は多くないように感じています。一つには、なんとなく存在は知っているけど、仕組みや投資対象をよく分からないので、注目しようがない、ということもあります。それ以外にも、「米国中小企業向けの融資」という言葉を聞いた時点で興味を失ってしまうケースもあるように思えます。特に日本には、メガバンク、地銀、ノンバンク等が全国にくまなく存在し、BDCのような存在が成長する余地が少ないように思えます。しかし、日本にない投資対象であるからこそ、我々がしっかり調べ、日本人投資家の投資対象として相応しいものか見極めたいと思います。