白木信一郎の「投資運用苦楽」

第190回  < 米国債務上限問題について >

米国での債務上限問題は様々な分野で波紋を広げていますが、私たち日本人には馴染みのない「政府機関閉鎖」状態が続き、人々の生活に目に見える形で影響を与えているのは、明らかな非常事態と思えます。米国では債務上限の切り上げを上限に達する都度、議会で承認する必要があり、ほとんど年中行事のように毎年承認のプロセスが行われてきました。しかし、今回、医療制度の改革等のオバマ民主党政権の政策に対して不満を持つ共和党が過半数を握る下院での承認は得られず、本原稿に向かっている10月9日時点では事態打開のメドが立っていないようです。したがって、10月17日の債務上限引上げ協議の期限までに与野党間での合意がなされるかどうかは未だに不透明な状態です。まかり間違って、議会の承認が得られずに新規に国債の発行ができない状況に陥れば、技術的な問題とはいえ、米国債のデフォルト(債務不履行)が起こりえる、というかなり緊迫した状態になります。

あらためて米国の債務残高を見てみると、2013年時点で約1,620兆円となっています。GDP対比での政府債務が世界一という有難くない立場にいる日本の約1,000兆円と比較しても、米国は更に巨大な借金を抱えています。日本に比べ政府保有の金融資産が少ない米国は、借金から資産を差し引いた、いわゆる政府「純」債務残高では日本の倍以上となっています。もっとも、単年度の政府支出と収入の差を表す基礎的財政収支(プライマリーバランス)は景気回復を背景に米国では改善しています。米国の借金の増加のスピードは落ちる一方で、日本は未だに財政収支の改善は見られずに拡大の一途をたどっています。

米国では2011年7月にも債務上限問題が顕在化し、政治的な混乱と債務削減の遅延から、格付け会社による米国債券の格下げが実施されました。今回、政府承認をめぐる技術的な問題とはいえ、米国債券のデフォルトの可能性が目前に迫れば、短期的とはいえ投資家が米国債券を保有し続けることが難しくなる可能性があります。しかし、市場参加者の大半は、現時点でも米国のデフォルトのリスクを当然に相当低めに見積もっていると思われます。たとえ、実際にデフォルトが起きたとしても、米国には債務を履行する実力があるとほとんどの人々が確信していることも、現時点で市場の動揺が限定的である要因だと思われます。

とはいえ、投資家がこれらの危機に対して受動的に反応せざるを得なくなった場合、最低でも2011年に見られた数か月単位の金融市場の混乱が起きる可能性は高く、場合によっては長く尾を引く可能性も十分に考えられます。直接的な金融機関や市場への影響もさることながら、人々の米国への信頼感の低下は想像の範囲を超えて様々な分野に悪影響を及ぼす可能性もあります。一方で、今回の問題は、米国債務の規模に対する自浄作用という側面もあると考えています。国民は忘れがちですが、近年の極端な債務の膨張という、将来に対する大きなリスクを人々の目に触れるように顕在化し、問題として扱うことで、広い分野の多くの人が解決策について考えるべき時に来ています。そして、これは前述の日本でこそ真剣に考えなければいけない問題であることを肝に銘じなければいけないと思っています。