第146回 < 世界一となる中国先物市場について >

11月10日、11日に中国出張に行きます(本コラムは出張前に執筆しています)。中国拠点のヘッジファンド運用者との面談と、上海で開催される「先物機関投資家セミナー」にスピーカーとして登壇するのが主な目的です。当社は、商品投資顧問業を営んでおり、これまでも何度か触れてきた商品先物投資を中心とする、「マネージドフューチャーズ」の運用を行っています。

当社運用戦略では現在、国内の東京工業品取引所、東京穀物商品取引所、2008年にCMEグループに買収されたNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)、同じくCMEグループ内の取引所であるCBOT(シカゴ商品取引所)やCOMEX(ニューヨーク商品取引所)、及び英国の取引所であるLME(ロンドン金属取引所)やICE(インターコンチネンタル取引所)において上場されている商品先物を中心に取引しています。

シカゴ、ニューヨークを中心としたCMEグループという取引所を有する米国が世界最大の先物市場先進国であることは言うに及ばないと思います。しかし、2010年には、商品先物取引の取引量において、中国が世界最大となったことはあまり知られていない事実だと思います。世界最大規模の輸出入を行う中国では、事業会社からのヘッジニーズも強く、商品先物の取引規模が急速に成長しています。

中国商品先物市場は、1990年に鄭州商品取引所(ZCE)で始まりました。その後、取引所が乱立し、先物ブローカーや取引商品の種類が急増した結果、取締り強化の必要性が出てきました。1993年から1998年に規制が導入された後、取引所、商品、ブローカーの統廃合が進み、金属取引に特化した「上海先物取引所(SHFE)」と農産物を中心とした「大連商品取引所(DCE)」と「鄭州商品取引所(ZCE)」の3取引所に集約されました。2011年現在では、取引商品数が25品目、ブローカー数が160社以上となっています。

前述のように、2010年に世界最大の取引量を記録した中国の先物取引所ですが、いまだに、非常に閉鎖的な状況にあります。中国規制当局が投機色の払拭を意図して、取引手数料引上げ、証拠金比率の引上げを通じて、取引量の抑制を図った結果、2011年には取引量が大きく減少しました。更に、国内外での相互の自由な商品先物取引は現状認可されていません。中国の事業会社がヘッジ目的で商品先物取引を行う場合には、国内上場の商品先物取引に限られており、海外商品市場を活用することができません。また、機関投資家は極めて限定された投資家のみが海外取引所で取引可能な以外は、国内市場での取引さえ許可されていません。外資系の国内商品取引所取引は、一部のジョイントベンチャーを除き、まったく見られない状況です。

このように、巨大な取引量を持つ一方、閉鎖的な中国の先物取引市場ですが、内外関係者はいろいろなチャレンジを行っています。中国証券監督管理委員会(CSRC)は、今年、「投資アドバイス」という資格を設け、先物ブローカーは事業会社向けに「リスク管理」や「ヘッジ戦略」に対するアドバイスを行うことが可能になりました。今後は、当社が日本国内で保有している、「商品投資顧問(CTA)」に該当する中国版の資格が出来、これを先物ブローカーが取得することが可能になると思われます。この場合、個人投資家の資金をCTAの枠組みで募集を行い、投機色を薄めた形で個人マネーが商品先物市場に戻ることが期待されています。

当面の間、経済的には中国市場が世界を牽引する形が続くと思われます。その中で、世界最大規模の輸出入を誇る中国の先物市場の規模が拡大するのは当然のことです。しかし、中国でも今後の規制当局や取引所経営の方針次第では、グローバル化から取り残され、最終的には衰退する可能性も考えられます。事実、10年前までは、日本の商品取引市場での取引量は米国に次いで世界2位でしたが、今では米国、中国、英国、のみならず、インドにも遅れを取る状況となっています。中国が日本の轍を踏まずに、先物取引市場を健全に成長させることができるか、また、私たちが流動性ある投資機会として活用できるかは、今後の関係者の取組みにかかっています。今回、参加する会議での私のスピーチの演題は「日本における先物ファンドの現状と 運用形態」です。私のほかにも日本の先物業界についての話をする方もいます。中国の参加者が今どのような興味を持っているのかを知る意味で、私も会議に参加するのを楽しみにしています。