第380回 < 恒大集団の債務問題について >

恒大集団(エバーグランデグループ)の債務問題がメディアで取り上げられ始めたのは、昨年2020年の秋頃からでした。当時はコロナ禍の震源地でもあった中国で、不動産販売が低調になったことで会社の資金繰りが悪化した一過性の問題かと思っていました。しかし、今年に入り、中国を代表する不動産開発会社のデフォルトの可能性が現実味を帯びたことで、市場関係者の間でも注目を集めるようになりました。

その後、恒大集団のドル建て債務の支払いが滞るなど、問題が表面化する中、本件を端緒にグローバル金融危機に発展する可能性なども議論されました。しかし、事態が長期化する中、徐々に中国メディアで取り上げられる頻度が下がり、また、国内では債務の利払いも確認されるようになりました。いずれは中国政府が事態を鎮静化させるだろうという期待もあり、徐々に市場での話題の中心からは外れていくようになりました。

しかし、30兆円を超える債務を持ち、中国全土の不動産開発に関わる同社が仮に破綻するような事態となれば、大きな混乱は免れません。問題は、この会社の破綻の影響がどの程度なのかを、市場関係者も全容を把握できていないことかと思います。欧米メディアなどでは、30兆円超の同社負債のうち、米ドル建て債券となっているのは10分の1以下にあたる2兆7千億円程度で、現在の市場規模から考えると、社債市場全体を揺るがす規模ではないとの報道もみられました。しかし、最近のレポートでは、恒大集団に対する市場のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の発行額が約18兆円にのぼるとの話もあり、同社の破綻がグローバルの投資家に与えるインパクトは当初想定を大きく上回る可能性があります。

さらに、同社の国内からの資金調達は、中国国内の銀行が中心とはいえ、6千億円以上といわれる理財商品の発行を通じて国内の一般投資家からも行われていると言われています。一説には、理財商品の所有者に対して、恒大集団は資金化が困難な不動産の現物分配も選択肢として考えているとの話もありますが、あまり現実的な話ではありません。香港市場に上場している同社の開示資料から、バランスシートを見てみると、在庫となる不動産と開発中不動産をあわせて約26兆円計上されているものの、仮に資金繰りのために流動化した場合に、かなり減価されることは想像に難くありません。

先日、中国に滞在している欧州の大学院の教授と、中国の銀行関係者と会議をする機会を得ました。事情に詳しい彼らからしても、恒大集団を起点とする複雑なサプライチェーンファイナンスの全容は把握できていないとのことでした。また、中国国内の報道でも、30兆円超の負債のうち、3分の1にあたる10兆円超の負債は保全されているとのことですが、残りの債務については説明がないようです。取引先や請負企業からの支払いの督促に同社が応じられておらず、複雑に絡み合ったサプライチェーンファイナンスの一部は、売掛債権等の形で転売されており、これらの所有者に対するインパクトもかなりのものになりそうです。

もっとも、中国政府による救済措置として、政府あるいは政府関連企業がレスキューファイナンスを提供する、もしくは恒大集団を買取ることで、市場に与える影響が軽減される可能性も残されています。しかし、中国において習近平政権が貧富の格差を縮小する思想として、毛沢東以来の「共同富裕」をスローガンとして掲げている中、不動産バブルを通じて貧富の格差を助長するようなビジネスを進めてきた恒大集団のような会社に対して、懲罰的な措置を取る意味で救済を見送る可能性も十分に考えられます。

以上のように、恒大集団の債務をめぐる状況は、今後問題が拡大する可能性が高いという印象をもっています。中国政府としては、同社の破綻に際して、中国国内景気を冷やしてしまう事態を避けるための防衛策をとるでしょうし、国営企業を通じて開発中の不動産を買取るなどの措置も考えられます。しかし、海外投資家保護を前提とした救済措置をとることはあまり考えられず、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)等を通じた影響がグローバル投資家に与えるインパクトは大きくなると思われます。タイミングを測ることは困難ですが、金融市場において、このような事態に備えた行動を心がけたいと思います。