第391回 < 屋上神社について >

先日、新橋にあるオフィスを往訪したところ、オフィスの入っているビルの屋上に「神社」がありました。ビル自体は40年以上前に建てられたもので、神社もそのころに建てられたようでした。せっかく見つけたこともあり、お参りをした後、神社を意識して屋上から周りを見渡してみると、あちらこちらの屋上に鳥居らしきものを見つけました。

後になって調べてみると、東京都心のビルの屋上にかなりの数の神社があることがわかりました。特に、銀座や新宿の様々なデパートのビルの屋上にある神社は人目にもつきやすく、その存在を確認できるものが多くあります。しかし、それ以外にも高いビルの上から周囲を見回してみると、相当数の鳥居や社が目に入ってきます。

不思議に思って調べてみると、日本国内に約8万あるといわれている神社のうち、約2万近くを占めるのが「稲荷社(いなりやしろ)」で、京都の伏見稲荷大社を総本宮として、稲荷神(いなりのかみ)を祀る神社です。ビルの屋上にあるものの多くはこれら稲荷社のようです。稲荷神は、「稲」の字からわかるように、元来は五穀豊穣を司る神であったものが、徐々に商売繁盛、産業交流、家内安全などの守護神としての信仰に変化していった模様です。

歴史を見ると、西暦700年初期に創建された京都の伏見稲荷大社が、『古事記』の中などに登場する宇迦之御魂神(うかのみたまのおおかみ)という穀物を司る日本神話の女神を祀ったことから、平安時代に入り、稲荷神信仰が浸透する過程で各地に稲荷神社が創られ、稲荷神を祀る風習が根付いたようです。

江戸時代に入って、商売繁盛を願う商売人達が、店舗の傍らや敷地内に比較的規模の小さい稲荷神社を建てたことは容易に想像できます。また、戦後、都市整備が進む中、多くの店舗がビル化する過程で、神社を残す場所を屋上に選んだことは自然の流れのように思われます。平安時代から続いた信仰であるため、全国津々浦々に稲荷神社が残り、さらに都市化が進んだ地域では多くのビルの屋上に上げられたことも想像に難くありません。

もっとも、私が屋上神社を調べるきっかけになった冒頭の神社についてはまったく歴史が異なることがわかりました。日本の帝国飛行協会(現在の航空協会)が、アメリカの飛行家で、1927年に大西洋単独無着陸横断飛行、1931年に北太平洋横断飛行にも成功した「チャールズ・リンドバーグ」を招いた1931年に、『航空神社』創設を決め、当時の帝国飛行協会飛行館屋上に当時の明治神宮の造営残木を使って建立したとあります。その後、現在の新橋にある航空会館屋上に移設され、航空平安祈願の神社となっているとのことでした。

このように、日本独特の歴史や文化の象徴が比較的身近にあるにもかかわらず、日ごろ見過ごしていることは他にもあるのではないかと思います。これからも、様々なことに興味をもって身の回りのことがらに接してみたいと思います。