白木信一郎の「投資運用苦楽」

第277回 < インドにおけるベンチャー投資について >

インド株式市場が堅調です。2014年モディ政権誕生時に規制緩和をはじめとする期待が先行したモディノミクスに沸いた後、一時期失望売りなどで市場は低迷しましたが、人口動態による、いわゆる人口ボーナスの影響を受けて経済成長率は7.5%を維持しています。このような状況下で、上場株式市場にも資金が流入しており、堅調な株式市場が継続しています。前回のコラムでご紹介した中国の状況と比較すると、勢いはインドのほうが上回っているように見えます。
米国においては株式市場の時価総額は軒並みIT企業が占めるようになり、大手IT企業におけるインド出身の従業員比率の高まりと合わせて、インド人CEOの誕生も目立つようになっています。ITに強いインドというイメージも確立しています。

しかし、インド国内のベンチャー投資に焦点を絞ってみると、少し別の景色が見えてくるようです。ベンチャーキャピタルからのベンチャー企業への投資は、2015年第三四半期にピークをつけて以降、減少傾向にあり、2017年第一四半期にはピーク時の半分程度に落ち込んでいます。特に、顕著なのがスタートアップ企業に対する投資が激減している点です。同四半期において、スタート後ある程度の期間を経たベンチャー企業への投資が17%減少したのに対して、スタートアップ企業への投資は50%急落したとの報告もあります(Venture Intelligence調べ)。
一例ですが、私たちが個別で見ているインドの有望ベンチャー企業でも、かなりの期間、収益や利益に関して厳しい状況が続いた時期がありました。私なりにインドにおけるベンチャー投資の状況を分析してみました。的外れな点もあろうかと思いますが、ご容赦ください。

1.インドでのITビジネスのビジネスモデルは、既に中国などで確立されたモデルの移植が多く、他国の競合相手がインド参入を虎視眈々と狙っていたため、自国スタートアップには厳しい状況である。
2.また、中国と異なり、インドは英語が公用語であるため、中国(韓国、日本)のような自国の言語を差別化とした囲い込みが難しく、他国企業に先行を許しやすい。
3.インドマーケットが巨大であるため、海外に目が向きにくい傾向があった。
4.米国では、収益、利益が計上される前のスタートアップ企業であっても、大手IT企業による買収、資本提携が日常茶飯事である状況と比較して、インド企業は秘密主義的なところが残っており、ベンチャー投資家にとっての出口戦略が限られてしまう。

比較的、上場のハードルが低いインド市場においては、早期に国内上場を果たす企業も多いため、投資家の目がベンチャー投資よりも上場企業投資に向きやすかったのではないかと考えています。ちなみに、私どもが個別で見ているインドのITベンチャー企業の中で、最近業績が好調に推移しているのは、中国国内市場のシェアの切取りに成功した企業です。競争の激しい業界において、今後はますますクロスボーダーでの売上げが重要になってくると思われます。現時点では、上記のように多少苦戦のみられるインドのベンチャー投資市場ですが、人口動態のメリット、英語を公用語としている強みなどを梃子にしてインドのベンチャー企業の存在感がさらに増すにつれ、規模が再拡大することになるのではないかと注目しています。