第266回 < 国内でのファンド買収案件の増加について >

11月22日に開示された、米国の大手バイアウトファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)による日産自動車傘下のカルソニックカンセイ株式会社の買収は、総額約5,000億円と、日本でのファンドによる買収案件としては過去最大のものとなりました。米国企業に比べて、日本企業の株式評価は総じて割安であることから起きた大型ディールとして話題になりました。しかし、個人的には、メディア等の反応を見て、ファンドによる買収に対して、日本企業や市場がだいぶ慣れてきたという印象を受けました。1990年代後半から2000年代前半にかけて、日本の金融機関の不良債権処理の過程でのファンドによる債権買収が多くみられ、国内企業や市場参加者の多くは、買収を行うファンドを、その種類や目的に関わらず「ハゲタカ」と十把一絡げに括って敬遠していました。

2000年半ば以降では、スティールパートナーズや村上ファンドの登場により、一部の純資産対比で市場価値が低く抑えられた企業は、株主となったファンドから、自社株買いや増配などの株主還元等の株主提案を突きつけられる事態を経験しました。それらの投資活動の強引な側面が特にメディアに取り上げられ、企業も市場参加者も「ファンド」全般に対して、なんとなく悪者としての印象を持ったと思います。日本の市場参加者や企業が「ファンド」の存在を認知し、意識してから20年以上くらいが経ちました。現在では、買収した対象企業の利益向上を通じて企業価値を上げた後、他企業等に売却を行う「バイアウトファンド」の存在が、その案件数の増加とともに比較的一般的なものとして受け入れられつつあるように感じています。

特に、今回、米国大手「バイアウトファンド」であるKKRが、自動車関連部品の製造を手掛ける優良企業でありながら、大手上場企業の子会社ということで、市場評価が割安に抑えられていたカルソニックカンセイを、買収発表時の市場価値に対して約80%以上の上乗せ価格をつけて買収し、同時に株主に対して多額の配当金を支払うことになります。このようなケースは、今回の買収に関わる関係者にとって、現時点ではウィン-ウィンのように見え、多くの企業や市場参加者にとって「ファンド」に対する印象を変える機会になると思われます。

日本には、今回のケースのように親会社に上場企業を持つ、優良な上場子会社がまだあります。優良子会社の経営陣が、制約の多い親会社から離れ、グローバルに展開するファンドからのサポートを受けて売り上げを伸ばすケースも見られます。また、国内の上場企業経営者の平均年齢は60歳を超え、さらに赤字企業の割合が高い70代社長の企業も増加傾向にあり、後継者問題に悩む企業も数多く存在します。欧米を含めたバイアウトファンドによる企業価値向上の方法を見てみると、増収増益のために最適な経営陣や従業員チームをスカウトするなど、人事面での手当てにも重きを置いています。日本でも、今後、顧客、株主、従業員等のステークホルダーのためにも、ファンドによる買収という選択肢がこれまで以上に必要とされるかもしれません。