白木信一郎の「投資運用苦楽」

第323回 < 新興国における公的ファンドをみて日本の資産運用を考える >

先日、幾つかの新興国の公的年金や政府系(ソブリン)ファンドに携わる方々とお話しする機会がありました。投資家としての新興国の年金やソブリンファンドが、どのようなポートフォリオを組成し、資産配分についてどのような考え方をしており、また、近年あらためて重要視されている投資におけるESG(環境・社会・ガバナンス)についてどのようなことを考えているのか、その一端を知る良い機会となりました。PEファンドやベンチャーキャピタル、インフラファンド、あるいはヘッジファンドといった「オルタナティブ資産」への投資に長く携わってきた身としては、彼らがその分野への投資をどのように考えているのかにも興味がありました。

新興国とひとつに括っても、人口の絶対数や構成、国が持つ資源、経済情勢、GDP総額や年金加入率など、それぞれの国特有の状況があります。そして、それらの要因によって、ソブリンファンドや公的年金の資産配分が大きく異なるのも当然です。たとえば、人口が約20百万人でGDP総額が約1兆円のある国での最大の公的年金の規模は約1兆3千億円程度です。その国では現時点で年金基金が為替リスクをとることが許容されておらず、95%の資金は国内の有価証券に投資されているとのことでした。しかし、国内の株式市場の規模は小さく、国内の取引所に上場されている株式は約300銘柄であり、基金の規模からいうと受け皿が小さく、国債への投資が大半を占めざるを得ない状況です。

別のソブリン系ファンドの方とお話していると、その国の人口は日本の倍とのことです。しかし、人口構成は日本とは大きく異なり、60歳以上の人口は全体の5%に過ぎません。現在、経済は人口ボーナスの追い風を受けて順調に成長を続けています。株式市場の時価総額は日本の10分の1程度ですが、ソブリンファンドは幾つかに分かれていますが株式時価総額の5倍以上と推定されます。そのような巨大な基金の資金の多くは国内のエネルギー施設の開発や道路、都市形成等のインフラ資産に向かっています。

日本では、機関投資家や公的年金基金等のアセット・オーナーの資産配分は、歴史的な背景から、過去には日本国債(JGB)がその大半を占めていました。しかし、長引く超低金利、あるいは近年のマイナス金利の影響を受けて、国内機関投資家がJGB資産を保有していてもまったくリターンを生み出さないばかりか、毀損するリスクがあります。国内株式市場は600兆円ほどの時価総額がありますが、昨今、香港市場に時価総額で抜かれる等、運用先として十分な受け皿と言い切れない面も出てきました。1990年代から徐々に「オルタナティブ資産」としてヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドへの投資が増加しましたが、インフラなどの実物資産への投資は、その中でも極めて小額で推移し続けました。

日本では、戦後の復興期に国債の発行を通じて政府主導でのインフラ整備が行われたという経緯があり、現在の国内有価証券の市場規模というのは自然な形です。一方、新興国の資産配分を見ていると、国債を通じての政府投資は当然に行われますが、一方、シンガポールやマレーシア等をロールモデルとした、ソブリンファンドによるインフラなどの資産への投資が活発であり、これが経済を活性化させている側面があります。公的ファンドによる資産配分は、その国内の民間ファンドのロールモデルになりますので、民間資金が国内インフラなどの実物資産に直接流れ込む形になります。日本でも、産業革新機構(INCJ)や地域経済活性化支援機構(REVIC)などの政府系資金を扱うファンドが存在し、ここからは未上場株を中心としたプライベート資産への資金配分が行われています。しかし、多くの人々はこれらの実態をほとんど知ることはないと思われます。

新興国のソブリン系ファンドをひとつのモデルとして、上述の日本の公的ファンドや公的年金などが日本の経済を支え、成長させる様々な資産クラスに資産を配分し、情報開示などを通じて人々が認識し、それを国内民間の多くのファンドが追随することによって、ガバナンスが向上しながら市場が拡大する。そんな将来を思い描くような機会になりました。