白木信一郎の「投資運用苦楽」

第322回 < 2019年4月の日銀金融システムレポートを読んで >

日銀が半年毎に公表している金融システムレポートが、今回も2019年4月17日にリリースされています。今回のレポート全体の論調は、最近何回かのレポートから大きな変化は見られませんが、いくつかあらためて強調しているポイントが見られましたので、以下、考察してみたいと思います。

最初に、ここ数回のレポートは、特に地域金融機関の足下の状況について厳しく警鐘を鳴らす内容でした。それが、今回のレポートでは一歩引いて、今後数年にわたっての状況を客観的に分析する内容に変わっているように思われます。具体的には、マイナス金利発動を背景に、近年、地域金融機関の不動産業向け融資や外債投資が急増してきたことに対して、過去数回のレポートがリスク管理の必要性などを前面に出して警戒感を露にした記述を繰り返してきたのに対して、今回は落ち着いたトーンで現状分析と将来予想を行っているように読めました。

本レポート内では、同じく低金利環境に苦しんできた欧州系金融機関との比較の中で、国内の地域金融機関のポートフォリオが投資信託を中心とする有価証券投資と不動産関連貸付へのバイアスが強い点を強調してはいますが、ここ数年の増加トレンドに減速感が見られることから、全体を通じては落ち着いたトーンになったものと考えられます。ここ2-3年、水面下で当局が各地域金融機関に対して、過度な不動産依存や外債投資に対してけん制を行ってきた効果があらわれた結果ではないかと推測しています。

前回のレポートは、不動産賃貸業向け融資残高の増加について強い警戒感を打ち出す内容でした。これは前回レポート発表前後に発覚した、スルガ銀行の不動産賃貸業に関わる不正融資問題を意識した内容であったのではないかと思われます。今回のレポートからは一連の不正融資問題がある程度落ち着いてきたことが窺える一方、米国のBB格付以下の企業に対するレバレッジドローン残高の拡大や、欧米のクレジット市場に対する警戒感が強く打ち出されていました。また、日本の金融機関が海外のクレジット収縮に対して影響を受けやすいとの研究内容が付されていたことから、海外での金融収縮が日本の金融機関に与える影響を不安視していることが分かります。

また、地域金融機関の収益性の低下については、引き続き大きな課題として取り上げていますが、こちらについて、即効性のある解決策が無いことから、従来どおりの記載にとどまっていました。したがって、本レポートでも、各地域金融機関がそれぞれに顧客である企業の課題解決や家計の資産形成支援等の金融サービス提供力を強化していくことや、融資拡大や有価証券投資の拡大にあたって、適切なリスク管理を行うこと、デジタライゼーションへの対応を通じた業務効率化や資本政策の強化を通じた生き残り策を積極的に打つことを勧めています。また、金融機関間の統合・提携や他業態とのアライアンスも有効な選択肢として提示していました。

最近、海外の運用者などと話していても、2019年に新たな金融危機を引き起こすような具体的な火種の存在について話題にのぼることはありません。ただ、長引く低金利の影響とファイナンスの拡大の中、クレジットの規律が緩みつつあることと、欧州、日本の金融機関が構造的に厳しい状況に陥っていることについてはほぼ意見が一致しています。これから数年にわたって、個々の金融機関において状況は異なるものの、金融業界における生存競争は過酷さを増すと思われます。私たちも緊張感をもってこれからの業務にあたろうと考えています。