白木信一郎の「投資運用苦楽」

第231回 <  米国最大の投資信託運用会社について  >

6月の第3週目に米国に出張しました。米国の複数の大手クレジット関連のヘッジファンド運用会社とのミーティングや、米国最大手投資信託会社への訪問、合弁会社の相手先とのミーティングや新規設定ファンドの打ち合わせなどが主目的の出張でした。特に、今回はフィラデルフィアに拠点を持つ米国最大手の投資信託会社を訪問し、先方の運用哲学、運用商品、市場について学ぶことになっていました。また、既に同投信会社の経営からは退いていますが、敷地内にある自らの名前を冠したリサーチセンターに勤めている創業者とご一緒にランチミーティングを持つ機会を頂戴しました。

今年で86歳になるその方は、今でも非常にお元気で、90分ほどのランチミーティングの間、熱のこもったお話を伺うことができました。1975年の創業から、約3.3兆ドルもの資金を運用する会社に育て上げる今日に至るまでの40年にわたる道のりは、自らの信念を拠りどころに、世の中の投資信託業界の常識と闘う日々だったことが伝わってきました。話の中で、「私は闘うことが好き、それは今でも変わらない」と語っていましたが、投資信託が運用会社を保有するという逆転の発想、それによって会社の利益を投資家が保有する投資信託の手数料引下げに転嫁するという仕組みは、数多(あまた)の競合相手を驚かしてきました。

彼の投資信託に関する考え方を突き詰めれば、徹底した「コストの排除」と市場に(ほぼ)連動したファンドの「長期」保有こそが、投資の神髄であり、その他の投資手法(アクティブ運用を含む)や金融商品の複雑な仕組みは、金融業界に「依存」する業者を肥えさせるための手数料を提供し、投資家の利益を害するだけである、という点に集約されると思います。もちろん、証券会社、仲介業者、投資運用アドバイザー、さらにアクティブ運用会社、ヘッジファンド等の立場からは、非常に厳しいコメントであり、反論を誘う内容でもあります。そこで、彼は、多くの機会で、様々な金融業界からの反論に対して「闘い」を挑み、そして最大の投資信託会社を育てることで、それに勝利してきました。

運用哲学、経営哲学からは学ぶことも多く、「20世紀の投資業界の最も偉大な4名(1999年フォーチュン誌)」の一人にも選ばれた彼の考え方の一つは、「足るを知る」というものです。日本人としては共感しやすい内容ですが、この考え方を提唱し、実践する人は、米国金融業界で成功している人の中には彼を除いて本当に一握りなのではないかと思ってしまいます。ヘッジファンド業界でも彼の考え方を信奉する運用者が多いのは皮肉に感じますが、米国の金融業界における影響力がうかがわれます。

今日、世界最大のミューチュアルファンド運用会社に成長した、バンガード社は、低コストのインデックスファンドを中心に世界中の個人投資家を取り込んでいます。創業者のジョン・ボグル氏が提唱し続けてきた考え方が、多くの人々に受け入れられた結果が、日本の公募投資信託残高の総額100兆円の4倍にのぼるその運用資産残高です。しかし、すべての投資家がインデックス運用商品で資産を保有したら、アクティブ運用者やヘッジファンドがすべて駆逐されてしまったら市場には何が起こるのでしょうか。ボグル氏は明確な答えを避けていますが、少なくともインデックス運用にはまだ大きな成長余地が残されており、「闘う」場所は用意されているようです。現在、米国のミューチュアルファンドのうち、インデックス型はETFも含めて全体の35%です。

日本の投信業界の行く末や、アクティブ運用の在り方、ヘッジファンドの在り方、そして、私たちのビジネスの在り方について、あらためて考える良い機会になりました。今回のミーティングの機会を与えてくださった皆様に厚く御礼を申し上げます。