第228回 < 日本の不動産価格にみるバブルの進行度 >

ここ半年の間で、都心の特にAクラスを中心とした不動産価格に関するショッキングな話を聞くようになりました。銀座の物件がキャップレート2%ちょうどで取引された、内幸町の大型物件が2%台で取引された、というような話です。不動産の専門家でもなく、実際の売買に立ち合っているわけではないので、噂の類かもしれませんが、話の出所は実務担当者なので、そう間違った数字ではないと思います。つい数年前までは、キャップレート5%割れの物件が出ると、だいぶ不動産にも資金が入りましたね、という話をしていたのが、今では2%台です。これは、だいぶ怖い話で、賃料が大幅に上昇したという話はまだ聞いていませんので、例えば1億円の賃料収入が期待できる物件がキャップレート4.5%から2.0%に下がったとすれば、価格は2.25倍上昇したことになります。

この間に、日本株が日経平均で10,000円から20,000円に上昇したことを考えれば、不動産価格の上昇も2倍で数字は合うな、と妙に納得しそうですが、日本の長期金利は10年物で足下0.5%を割り込んだ時期が続いていますが、3年前でも0.6―0.8%台と大幅な変化は見られません。つまり、日本における不動産のリスクプレミアムが大幅に(2%以上)縮小したことになります。価格だけをみるとありそうな話に見えますが、利回りやリスクを考えると不動産(都心のAクラス物件に限るとは思いますが)の価格上昇は少し行き過ぎに思えます。

周囲の専門家に聞いてみると、これらの不動産価格の上昇をけん引しているのは、アジア、特に中国の法人、個人投資家だそうです。投資家の中には、利回りを見ずに、自国内での投資物件と日本の都心の物件の価格、利便性、品質を比較して購入を決める人たちも少なくないようです。このような説には説得力もあります。北京の中心地では、坪1500万円近くで取引された区画があると聞きました。昔、東京を売ったら米国が買える、といったバブル期の揶揄的な話がありましたが、バブル全盛だった中国でも同じようなことが起きていました。いま、中国の不動産バブルは崩れつつありますが、これらの状況を目の当たりにして、日本の高品質不動産を保有したいと思う中国人投資家が積極的に投資を行うことは想像に難くありません。

もっとも、最近の事象を、破裂間近なバブルの進展とみるか、恒常的な価格上昇の始まりと見るかは難しいところだと思います。米国のマンハッタンや英国のロンドン等の一部の不動産は、景気の波に多少は左右されますが、基本的には右肩上がりで不動産価格が上昇してきました。これは、世界中の富裕者や法人が機会さえあれば、マンハッタンやロンドンの不動産を保有したがっているからだと思われます。東京がアジアにおけるマンハッタンやロンドンといった存在になった場合、景気サイクルの下降局面に入っても、不動産を買いに来る投資家が出てくる可能性もあります。シンガポールや香港の不動産もこれと似たような状況で、高騰を続けています。前回の日本の大型不動産バブルは、国内投資家主導で起こりましたが、今回は海外投資家の果たす役割が大きくなり、そのすそ野も広がりつつあるようです。

一方、国内投資家主導であれば、日本の金利水準と国内レバレッジの状況に左右されて不動産価格も決まっていくと思われますが、海外投資家の参入による上昇が大きければ、グローバルの金利水準やレバレッジにも影響を受けやすくなり、価格の予想も難しくなるかもしれません。ここが不動産上昇の始まりか、5合目か、あるいは8合目にいるのか、目を凝らして耳を澄ませておきたいと思います。