第203回  < GPIFの動向と市場への影響 >

4月21日の夜に世界最大の年金基金である、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用委員会の新メンバーが発表になりました。安倍政権の成長戦略の柱の一つと言われ、昨年から議論が活発になっているGPIFの在り方については、多くの市場関係者が注目しています。特に、昨年末時点で約128.6兆円の運用資産を持ち、そのうち約71兆円を国内債券に投資しているGPIFが少しでもその資産を国内株式に振り分ければ、株式市場に大きなインパクトを与えることになり、市場関係者がその言動に一喜一憂するのも仕方ないことと思えます。また、アベノミクスを足掛かりに日本株への投資を増やしてきた外国人投資家が、足下、成長戦略への失望感から日本株から引き気味と言われている時期でもありますが、そのような外国人投資家も期待感をもって、GPIFの変化を見ているものと思われます。

今回、任命された運用委員会の委員7名のうち、6名が新任の方で、なおかつ、そのうち3人はこれまでのGPIFのポートフォリオの見直しを検討してきたと思われる有識者会議のメンバーです。安倍内閣の求めるGPIFの資産配分と組織に関する改革が加速するとの期待がメディアでも見られます。実際、有識者会議を通じて中心的なメンバーのおひとりだった早稲田大学大学院の米沢康博教授は、3月の講演で、有識者会議の提言内容に言及されており、その中には、現在の国内債中心のアセットアロケーションの変更や、現在の政権下でインフレが起こる可能性を踏まえたアロケーションの在り方を検討しているようなコメントがありました。

数か月後に控えた次回のアセットアロケーションの変更について、大方の投資家は、GPIFが国内債券の保有割合を減らし、国内株式の保有割合を増加させると考えているのではないでしょうか。しかし、すでに昨年末時点で、国内債券が55.2%、国内株式が17.2%と、設立以来、国内債券の割合は下降傾向にあり、国内株式の割合は上昇傾向にあります。現在の基本ポートフォリオが国内株式12%、国内債券60%、外国債券11%、外国株式12%であることを考えれば、国内株式へのアロケーションは、許容されるかい離幅の上限に達していることがわかります。したがって、今回の委員会の改変によって、数か月後の見直しが行われるとしても、基本アロケーションの変更を含めてそれほど劇的な変化がすぐに起きることは期待できないかもしれません。また、たとえ、国内株式のアロケーションを大幅に増やしたところで、運用のリスクが上昇し、また、経済への影響も一時的なものにとどまる可能性も高いと思われます。実際、今回の発表のあった当日の日経平均株価は、朝方こそ上昇したものの、0.85%下落して引けています。また、債券価格もほとんど動きませんでした。

一方、世界最大の年金基金を日本が保有し、その運用方法について多くの人々が注意を傾け、この資産を有効に活用することを議論すること自体がGPIFに変化をもたらすと考えられます。今回の委員会の変更前に、すでに、カナダの年金と共同でのインフラストラクチャ―への投資や、コーポレートガバナンスを前面に出した投資を行う株式ファンドへの投資を決めているGPIFは、すでに改革のさなかにあり、それらの改革は、有識者会議をはじめとする多くの人々の考えの中で揉まれて進められています。筆者も基本的には、今回の動きについて、たいへん前向きなものと受け止めており、国民の一人として、国富の保全と成長を期待せずにはいられません。しかし、現時点でのGPIFの変化への評価は、いまだに定まっていないと思われます。日本の縦割行政が変化を阻害するかもしれませんし、変化が正しい方向で行われない可能性もあります。また、国民の注意が向きすぎることで、様々な利害関係が対立する結果、健全な運用が出来なくなってしまう可能性もあるかもしれません。

GPIFはあくまでも年金基金であり、その理念は、国民のための年金給付の財源としての安全かつ効率的な管理、運用にあります。それでも、金融市場に身を置く者として、このような巨大な運用機関が自国内にあり、日本に成長をもたらす原資として、その資産の一部が活用されるのであれば、これは胸の躍る機会と感じます。GPIFの変化が将来に対する前向きなメッセージを伝えることが出来れば、国内外の投資家も足下のGPIFのアロケーションに一喜一憂するのではなく、将来性のある日本買いに動くことで、株式市場にも好影響があると思います。