第195回  < 物価連動国債という投資対象 >

最近、政府、日銀が物価上昇の目安を2%に据えるなど、国を挙げてのデフレ脱却、インフレ振興論がすっかり定着したように思えます。また、円安が進行することによって、輸入に頼る日本のエネルギーや消費財の価格上昇が見込まれること、さらに、2014年以降随時予定されている消費税増税などを考えると、当面は物価が上昇推移することが考えられます。そんな状況に呼応するように、新聞紙面でもよくみかけるようになったのが、「物価連動国債」という存在です。日本では、国債全体に占める割合が約1.8%に過ぎず、馴染みの薄い「物価連動国債」ですが、世界の先進国では、英国や米国が積極的に発行しており、特に英国では、2013年時点で、国債全体に占める発行割合が24.7%にも及んでいます。

「物価連動国債」とは、債券元本がコアCPI(生鮮食品を除く全国消費者物価指数)の変化率に連動して増減する国債です。本国債の発行後に物価が上昇すれば、その上昇率に応じて元金額が増加する仕組みになっています。また、欧米の「物価連動国債」が償還時点に元本割れをしないような「フロア」の付与された債券であったのに対して、これまで、日本では「フロア」を付与していませんでした。しかし、今後、日本でも積極的に「物価連動国債」を広めていこうという機運も高まっており、2013年10月に久しぶりに発行された本債券からは、元本に「フロア」が付与されることになりました。機関投資家の中には、さっそく、将来のインフレに対して防衛的な債券である本債券を、ポートフォリオの中に組み込む動きが見られています。

ここで、「物価連動国債」の元本が連動する、物価連動国債についてみてみます。全国消費者物価指数というだけあり、消費者である我々が購入する財やサービスの商品の価格の動きを表した指数になります。全国の都市部を調査対象として、「食料」「住居」「光熱・水道」「家具・家事用品」「衣類」「保健医療」「交通・通信」「教育」「教養娯楽」「諸雑費」の大項目の中で、平成22年度基準では、588品目の価格によって構成されています。その中でも、構成要素として、大きいのは、「食料関連(25.3%)」「住居関連(21.2%)」「交通・通信(14.2%)」「テレビ・新聞・書籍・文具等に代表される教養娯楽(11.5%)」「光熱・水道(7%)」などになります。債券価格の算出に際しては、変動の大きな生鮮食品の価格が除外されますが、統計の中で、最も割合の大きな個別項目を見ると、「穀類」「魚介類」「肉類」「野菜」「菓子類」「酒類」「家賃」「電気代」「水道料」「衣料」「医薬品」「ガソリン」「携帯電話料金」「授業料」「旅行代金」があげられ、それぞれ、統計の中の構成要素の2%前後を占めています。どれも、家計に直接影響のある品目ばかりです。

今後、日本が欧米並みの、あるいはそれ以上のインフレ上昇率を継続的に記録するかどうかはまだ分かりません。しかし、アベノミクスによる円安やインフレターゲット議論、そして、海外での事例を見れば、20年近くにわたって続いてきた日本におけるデフレが今後も続くと考えるよりは、物価上昇や金利上昇が起きてもおかしくはない状況にあると思われます。そのような中、金利上昇に弱い国債(金利が上昇すれば価格が下落する)をそのまま保有するよりは、「物価連動国債」という代替手段が投資家に受け入れられやすい下地ができつつあるように感じています。私たちも、そのような時代の流れにあった金融商品の開発などを通じて、投資家の皆様への貢献ができるよう、研究、開発を行っていきたいと考えています。