第160回  < コーポレートガバナンスについて >

6月4日に業界団体であるAIMA(オルタナティブ・インベストメント・マネジメント・アソシエーション)ジャパン主催の年次会議を開催いたしました。お越しいただいた皆様、スピーチ、パネルにご登壇頂いた皆様、また、スポンサーの皆様方のおかげをもち、例年以上に盛況な会議となりました。この場をお借りいたしまして、主催者の一員として皆様に御礼を申し上げます。今回の会議の前半では、主に国内のコーポレートガバナンスについて取上げ、スピーカーやパネリストの皆様からお話しして頂きました。

最近では、オリンパスのケースがコーポレートガバナンスを語る上で頻繁に例出されます。今回の会議でも多くの参加者がこの事例に触れました。スピーチの中には、企業経営者が悪意を持って、あるいは故意に、社内不祥事や財務上の瑕疵を隠匿しようとした場合、かなり高い確率で相当期間(少なくとも当該経営者が在任中)はこれらの問題を株主などの関係者から隠すことが可能だという前提に立ち、コーポレートガバナンスの難しさを強調される場面もありました。また、日本のコーポレートガバナンスの定義として「企業統治」という言葉が使われているのが誤解を招いている部分があり、コーポレートガバナンスの目的とは何か、という根本的なトピックをはじめ、興味深い議論が展開されました。

上場企業の中でも、まだ数は少ないものの委員会設置会社に代表されるような、社外取締役を過半数とする取締役会の構成が見られるようになりました。この際、果たして社外取締役がコーポレートガバナンスの強化にどの程度寄与するのか、という議論も見られました。前述のように、経営者万能主義の立場から見れば、社外取締役、あるいは社外監査役の牽制機能には限界が見られるという意見もありました。また、実際に大手上場企業の社外監査役に弁護士として就任された実務者の方からのご意見もあり、社外監査役機能の意義や限界についてもお話を伺うことができました。企業の経営者の視点、社外取締役の視点、社外監査役の視点、そしてそれらを外部から監査する立場、規制当局の立場から監視する立場、企業の顧問弁護士としての立場など、いろいろな角度からコーポレートガバナンスに関するそれぞれの見方を伺うことができたことは、今回の会議の大きな収穫だったと思います。

今回の会議の内容を自分なりに咀嚼してみました。実用的なコーポレートガバナンスとは、株主、顧客、社会、社員にとってプラスになるべきものです。主に株主の投資先企業に対する理解を深めることに寄与し、ひいては投資家の利益機会を高め、さらにはその他のステークホルダーが安心して取引し、働ける環境を改善するものがコーポレートガバナンスだと考えます。その際、社外取締役や監査役の設置、内部統制機能の強化は、どれもガバナンス強化の必要条件にはなりえますが、それだけでは十分ではありません。日常においては、取締役会に対して、どれだけ日常業務の重要情報が適切に過不足なく提供されるかがコーポレートガバナンスの成否を左右します。そのためには、現場レベルでの情報伝達や意思決定プロセスが整備されている必要があり、必要な情報を過不足なく取り出せる取締役メンバーの構成が不可欠です。このように、企業としての総合力を上げ、質の高い経営にまで昇華させる不断の努力がコーポレートガバナンス強化の道筋ということになります。

私どものような運用会社の大半は非上場企業です。コーポレートガバナンスの議論は、一般的に上場企業を対象になされることが多く、必ずしも同様の定義はできません。しかし、株主を投資家の皆様に置き換えて考えてみることも出来ます。また、資産運用業というビジネス自体の高い社会性を考えれば、たとえ非上場であったとしても、上場企業と同レベルのガバナンスを持つ必要があるとも言えます。実際にAIJのような事件が起きた背景を考えれば、今後の投資運用会社に求められるガバナンスの在り方も、自らを律し、質を高めるべきものであると痛切に感じています。その意味でも、今回の会議は私にとって非常に有意義なものとなりました。