第153回 < 米国出張報告 (2) >

1月末から2月2週目までの出張の間に40社以上の海外運用会社と面談を持ちましたが、そのとき、話題になった主なトピックを筆者の感想を含めて幾つか取り上げてみたいと思います。

(1) 欧州問題への根強い懸念と投資チャンス
前回のコラムでも述べたように、特に米系の多くの運用者が強気転換し、相場も反転したとはいえ、欧州債務問題への懸念は引続き根強いものがあります。相場を主導する日々のニュースが政治的なトピック中心なため、市場参加者は先行きが「分からない」というのが実情です。特に欧州の政治情勢は関係している国が多く、歴史的な背景なども込み入っているため、長年相場に携わっている運用者もどのような展開になるか予測が困難です。したがって、面談した欧州市場に詳しい人々も、そうでない人々も、また、強気の運用者の大部分でも、一様に「欧州に関する何らかのヘッジ」をかけている様子でした。

この「何らかのヘッジ」が曲者だという印象を今回強く受けました。例えば、米国株式や債券を専門に取引している運用者の間でも、ユーロが通貨として機能しなくなる状況を最悪の状況と想定して、これをヘッジする「ユーロ通貨売り(実際にはユーロプットオプションの買い)」を保有しているところが非常に多く見られました。また、欧州関連の株式、債券を持っているようなファンドであれば、流動性のあるポルトガル、スペイン、アイルランド等の株式インデックス売りやCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)でヘッジするケースが非常に多く見られます。つまり、運用者のポートフォリオに直接関係がなくても、流動性のある欧州関連金融商品を政治情勢が主導する先行き不透明感を理由として売っている状態です。

もちろん、ギリシャの破綻懸念が高まり、ポルトガル、スペインに懸念が飛び火するなどのパニックモードの時はこのようなヘッジは有効に働きます。しかし、一旦情勢が鎮火した場合、どのタイミングでこれらのヘッジポジションを解消すべきかが非常に難しくなります。つまり、多くの運用者が経験を積んだ専門家とはいえ、彼らが中心に扱っている地域や専門外の欧州ヘッジポジションを保有しているため、そのポジション調整は案外市場動向に振らされやすくなります。ユーロ・ドルのポジション解消が一気に起き、ユーロ高が進むのも、イタリア、アイルランドの国債などが一気に買い戻されたりするのも、このような「ヘッジポジション」の解消が一役買っていると思われます。

ヘッジポジション解消による買い戻しが起こりやすい状況下、欧州株式や欧州債券の中でも相当割安に放置されている銘柄が存在します。東欧関連の優良企業でも株式、債券とも相当売り込まれていますし、借入のロールが出来ずに資金繰り難から倒産しそうな企業の中にも清算価値が大きな会社も散見されます。一旦、買い戻し気運が高まるようなことになれば、このような投資対象に的を絞って投資を行っている運用者のリターンは2012年に相当期待できると考えていますし、ダウンサイドも限定されているそうです。

(2) 米国経済回復気運と好調な中南米
アメリカ人は楽観的、といってしまうとそれまでですが、今回、米系の運用会社は総じて強気への転換が早かったという印象を受けています。米国に2週間近く滞在し、各都市を歩き回った印象として6ヶ月前、1年前と大きく変わった光景があるわけではないのですが、人々と話していると、(金融以外の)雇用が非常に前向きな状態であることがわかりました。もっとも、オバマ政権に対する信頼感は徐々に回復しているとはいえ、さほど高くありません。また、年金、福祉、社会保障制度の未来に対する不安を抱えている状況には変わりはありませんが、少なくとも足下の企業業績が好調です。企業業績の好調さが雇用の回復を生み、小売の回復につながっているように見えます。

また、住宅市場へ的を絞った政策投資も効果を上げているように見えます。金融の中でも住宅関連(モーゲージ)市場への資金投入が徐々に効果をあげており、住宅関連市場が底を打ちはじめていることも米国景気の回復を後押しするものと思われます。好調な企業業績と比較すると、株価は割安な銘柄も多く、当面、機関投資家が株を買い戻す状況が続きそうです。

更に、米国経済回復を支えている一部に、ブラジルをはじめとする中南米の経済成長があります。今回、フロリダを訪問した際にマイアミビーチに停泊する中型クルーザーのオーナーについて質問をしたところ、圧倒的にブラジル人所有者が増えているとのことでした。経済が急成長するラテンアメリカで成功した富豪達は、治安の悪い母国では派手な生活を控え、米国での投資、消費を増やしているそうです。ブラジルでのワールドカップ、オリンピックを控え、この基調は当面続くと思われます。

(3) 米国エネルギーを中心とする資源関連投資の間口が拡大
米国経済の回復を支えている背景にエネルギー事情があると思われます。最近話題になることの多い、シェールガスの埋蔵量は米国のエネルギー消費を100年間以上支えると言われています。シェールガスの実用化に伴い、米国各地でエネルギーインフラ整備が活発に行われています。新しいエネルギー源の活用が、採掘、輸送、電力各社での雇用を高め経済効果を上げていますが、同時に新しい投資機会を提供しています。例えば、エネルギーパイプラインや電力施設に投資を行うMLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)という投資対象が脚光を浴びています。

簡単に言えば、REIT(リート)が不動産を投資対象とする小口化ファンドとすれば、パイプライン等のエネルギーインフラを投資対象とする小口化ファンドと言えます。REITと同様にリターンの大半を投資家に配当することを義務付けられた投資商品であることから、日本と同様、低金利に悩む米国投資家にも人気があり、個人、機関投資家の投資対象として浸透しつつあります。また、国内エネルギーインフラ投資も活況で、機関投資家の長期投資のニーズは底堅いものがあります。最近日本の商社が海外資源関連に投資する事例が新聞紙面を賑わせることが多いと思いますが、米国企業も国内外の資源、エネルギー投資を拡大させています。このような中、前述のシェールガス採掘や地中に浸み込んだ石油を抽出する技術を活用したオイルサンドの採掘等、エネルギーイノベーションとも言うべき動きが起きています。この分野に対する投資は、今後も続くものと考えられます。

このように、米国での出張を通じては1月、2月の好調なリターンに伴い、前向きで強気な意見や見方が急速に増えています。一方、今回の出張で感じたネガティブな側面もそれなりにありました。次回のコラムでは出張を通じて感じた現在の金融市場の潜在的な問題についてお話したいと思います。