第154回 < AIJ事件に関する考察 >

2月24日に関東財務局よりAIJ投資顧問に対する行政処分が発表されました。本件により直接的、間接的に影響を受けた皆様方には、大変なご心労のこととお察し申し上げます。弊社としましても、一刻も早く関係当局により、本件の全容が解明されることを心より願っております。弊社では国内外のヘッジファンドやプライベートエクイティファンドに投資するファンド・オブ・ファンズ業務を行っております。この場をお借りして、当社のファンド・オブ・ファンズにおいては、今回問題となっているAIJ投資顧問関連のいかなるファンドにも投資を行っていないことをお知らせ申し上げます。

また、弊社を始めとする投資運用業を営む者は、投資家の皆様の資産を運用するにあたり、真摯・誠実に、かつ、高いコンプライアンス意識をもって日々の業務にあたっております。本件のような事件は、投資家の皆様の信頼を裏切るものであり、資産運用業界全体に与える影響は計り知れません。資産運用業に携わる一員として、強い憤りを感じております。私ども役職員一同、投資家の皆様のご懸念とご不安を、多少なりとも軽減し、ご信頼をいただくために、従来実施して参りました運用状況の情報開示のさらなる徹底とともに、コーポレレイトガバナンスに対する意識を高め、日々の業務に努めてまいります。

今回のAIJ事件は、その概要において2008年末に発覚した米国でのマードフ事件と酷似しています。米国においては、エンロンやワールドコム等の事業会社による粉飾決算と破綻が起き、企業統治(コーポレイトガバナンス)の必要性が認識される中、ファンドによる大規模粉飾事件としてマードフ事件が発覚しました。日本国内においても、オリンパス問題が発覚し、その余韻も覚めやらない中で今回のAIJ事件が起きています。エンロンやオリンパスの問題は、株主の企業経営者に対する企業統治を厳正化する声を強め、結果として企業の情報開示内容や頻度に変化が見られました。同様に、マードフ事件を契機として、グローバルな投資家が運用会社に対して求める情報開示やコンプライアンスのレベル、また投資対象ファンドの仕組みに対する要望も高度化、多岐化してきていました。

私どもがファンド投資家として、マードフ事件前から自らに課していた調査内容については、マードフ事件後の2009年1月配信のメールでご説明しています。今回のAIJ事件に関して、当時の当社の調査項目の観点から見てみると、複数の項目で危険信号が出ていたことが分かります。例えば、今回の仕組の中では発注を受けるブローカー(証券会社)の独立性が担保されず、したがって、口座間の資金移動で不正を防止できる形態にはなかったようす。また、投資家は運用者の投資対象の個別銘柄を知るすべがなかったようですが、こちらも危険信号です。

新しい戦略や運用者、また、ファンドの仕組が増えていく中、ファンド投資を続けていくためには、調査、選定についてノウハウを溜め、また、改善を続けていくことが必要です。例えば、私達がマードフ事件後に気をつけて調査している点は、ファンドの関係者である事務管理会社、信託銀行、ブローカー(証券会社)、販売会社等のバックグラウンドチェックです。また、表示されている運用成績と、実際の投資行動に乖離がないかを確認することで、多くの場合の運用成績の虚偽記載に気づくことができます。しかし、そこを認識するためには、金融市場における投資経験と、投資対象の運用戦略に対する深い理解が必要になります。

事業会社のコーポレイトガバナンス同様、運用会社が高度なコンプライアンス意識を保ち、かつ一会社としてのガバナンスを維持、強化し続けることは非常に重要です。運用会社の場合、特に投資家の皆様に対する受託者責任、善管注意義務を全うすることが、運用のリターンをご提供することと並んで最大の責務と考えています。一方、この業界の一員としての我々は、投資家の皆様が、数多くある金融商品や運用対象について正しい理解をもっていただくことをサポートすることにも責任を負っていると考えています。今回のような不祥事を契機に、徒に投資を忌避する方向には走らず、市場関係者のファンド投資に対する正しい理解が深まり、より健全かつ高度な投資が行なえるような環境を整えられるように、私どもも微力ながら努力を続けたいと考えています。