白木信一郎の「投資運用苦楽」

第144回 < 底入れか、底割れか >

2011年9月末までに各市場は大きな価格調整を行ってきました。その後、10月3日の下げ相場を最後に足下1週間は市場に落ち着きが戻ってきました。昨年2010年5月のギリシャ危機以降、何度か繰り返されているサイクルです。何回か繰り返されていることもあり、市場参加者も市場の回復には半信半疑で対応する「クセ」がつき始めているように見えますが、相場の急落局面での投売りや、ヘッジ目的での短期的な売りポジションが買い戻しに入ることで、各市場のチャートを見る限りは、一旦底入れをしたかのように見えます。

欧州金融安定化基金(EFSF)の利用を巡っては、負担を強いられる加盟各国の間で、思惑の違いが表面化することは間違いないとしても、統一通貨ユーロの維持、存続が各国に与える便益を考えると、最終的には合意が得られるものと思われます。また、米国においても、管理不可能なインフレーションの状況を避けられる範囲で、金融緩和は続けられる可能性があります。このどれもが、結局は2008年の金融危機をしのいだ時と同様に、抜本的な解決策ではないことは明らかであるものの、当面の市場心理の改善には役立つものと思われます。

一方、これまでの金融危機と同様に、今回の市場の波乱にも複数の要素が含まれています。ギリシャに端を発するユーロ圏の債務問題、そこから透けて見える先進国の低成長がもたらす近未来のより厳しい欧米日各国の債務超過問題、これまで市場を牽引してきたアジア、南米(特に中国、ブラジル)等で報じられるインフレーションの懸念や、高成長期待の翳りなど、市場環境は決して順調といえる状況にはありません。欧州の人たちと話していると、身近な消費財の物価は先進国でも実質上昇しているようです。このような状況から考えれば、景気底入れ自体はまだまだ先のように見えます。また、中国がいかに不動産バブルの崩壊を防ぎながら物価上昇問題を押さえ込むか、という課題もグローバル経済に大きな影響をもたらす問題なだけに予断を許しません。

上述の考察から、短中期的には市場が一旦底入れをした状態にありながら、1年単位の長期においては一段の調整が起こりえる状況にあるといえるかもしれません。短期的な市場参加者のポジションを測る方法として、ヘッジファンドがどのようなポジションを取っているかを見ることがあります。9月末以降、観測可能なヘッジファンドのポジションの約半数が、何らかのリスク資産(株式、社債、コモディティ等)をショートしている状況になっています。通常時はヘッジファンドといえども、7-8割のファンドがロング側に傾いていることを考えると、2008年のリーマンショック後と似て、特殊な状況にあります。リーマン後、3-6ヶ月の時間差で、市場が大きく反転したことを考えると、今回も市場が底入れをする可能性が十分にあります。しかし、前段で書いたような問題が投資家心理を冷やしていることも事実であり、人々がこれらの問題を一旦忘れるほどには、強気の材料が幾つか出る必要がありそうです。

米国では雇用の改善が遅れているものの、米国企業の倒産確率は2%台と非常に低い水準にあります。好調な米国企業の業績が続く限りは、人々は徐々にグローバルに起こりつつある資本市場の懸念を忘れ、リスク資産への資金シフトは続くと思われます。また、欧米で企業の資金調達の満期がピークを迎えるのは、これまで2012年から2014年といわれてきましたが、企業側の努力や、金融機関との交渉の結果、この満期のピークが2-3年ほど後ろ倒しになっているようです。したがって、資金繰り悪化による倒産確率の上昇を気にするのは少し後になりそうです。新興国の成長の果実を母国の資産増強につなげられる欧米の企業活動が活発である限り、また、欧州の金融機関の大規模倒産などが見られない限り、今回の欧州債務危機問題による市場の底割れ懸念は一旦回避される可能性が高まりつつあります。