白木信一郎の「投資運用苦楽」

第136回 < ユニークなヘッジファンド運用戦略について (2) >

ユニークな投資手法の中には、戦略そのものが複雑なもの、珍しいもの、あるいは前回のコラムで述べたサブプライム関連証券を取り扱う投資戦略のように、一旦人々が見放してしまい、競争が少ない等の理由のほかにも、運用会社の体制が主な理由となって、結果的に運用戦略に特殊性が出るケースがあります。ヘッジファンド運用会社であっても、一資産運用ビジネスの経営には変わりがありません。その発想によって運用業界の中でもユニークな運用サービスを提供するケースがあります。今回触れるのは、採用している戦略自体はさほど珍しいものではないものの、運用会社の組織としては極めてユニークで、なおかつ、ヘッジファンドの業界でトップレベルのパフォーマンスと運用資産残高を維持している会社を取り上げてお話したいと思います。

現在、その米国運用会社は日本円で1兆円を超える資産を運用していますが、まだ20年弱の歴史の会社です。当時創業者が20億円の運用資産で開始した後、現在では1兆円を超え、社員も900人近くとなっています。彼らの運用戦略は、株式ロングショートを中心としていますが、企業価値に着目するファンダメンタルズのみならず、テクニカルな手法も取り入れており、また、一部では為替や金利を対象としたマクロ的な手法も採用しています。このような多岐にわたる運用手法は、実際には一人の運用者あるいは一つのチームで行われているわけではありません。いわゆるポートフォリオマネージャーが100名以上存在し、そのほかにもアナリストなどの運用に携わる担当者の数は、世界各国のオフィスをあわせるとその5倍にのぼります。

ヘッジファンドとして、これだけの規模の人材を擁し、トップクラスのパフォーマンスを出し続けていること自体、たいへん珍しいことなのですが、一方で運用者の数の多い伝統的な資産を運用する会社では、1兆円を超える会社は多数存在します。それでは、この会社のどこがユニークなのでしょうか。まず、この運用会社に在籍する運用者の「質」の高さは他を圧倒しています。この会社に加わるポートフォリオマネージャーは、一人で採用される場合もあれば、「チーム」として採用されることもあります。共通点は、いずれの場合も他社で非常に高いパフォーマンスを継続的に計上してきた「プロフェッショナル」ということです。この会社に加わった運用者は、自ら、あるいは自分のチーム内以外の運用者の運用状況や投資対象を一切知ることは許されません。例外としては、自分たちのパフォーマンスが、社内の複数の運用者の中でどの順位にいるかのみ知ることになります。更に、一定のリターンを出すことができなかった個人、あるいはチームは、契約によって退社することになります。

したがって、苛烈なまでの社内での運用パフォーマンス競争が、世界でもトップクラスの運用者たちによって日々繰り広げられる環境です。このような過酷な環境であることを知っても、この会社に加わることを目指す運用者が後を絶たないのは、高い「成功報酬」と、この会社に加わることによって活用できる複数の「リソース」にあります。この会社が積み上げてきた歴史によって、一流の運用システム、リスク管理システム、社内アナリスト情報などを共有することが可能になります。また、ボリュームディスカウントによる低廉な執行コストによって、他社比で高い収益を上げることも可能になります。ヘッジファンド業界には、似通った仕組みを持つ運用会社がいくつか存在しますが、このような「運用プラットフォーム」を作り出し、維持するためには、相当のノウハウやコストが必要であり、それらが、新規参入者を阻む要因となっています。