白木信一郎の「投資運用苦楽」

第124回 < 国内総合取引所の可能性 (2) >

前回のコラムでご紹介した「総合的な取引所検討チーム」の第3回の内容が各省庁のホームページに掲載されています。各省庁の副大臣と政務官および業界関連の方々による意見交換が行われましたが、業界の方々の多くは商品取引所の存亡の危機という認識を共有していたように思います。しかし、実現のためのハードルは低くありません。政府レベル、民間レベルでどのような取組みが必要か、筆者なりに考えてみたいと思います。

まず、政府レベルでの理解・合意・サポートがあることを明示し、業界参加者が安心して総合取引所案を推進し、利用者が証券・商品取引を自由に行えるような枠組みを進める下地を作ることが必要だと認識しました。今回の参加者は日本国内での商品先物などの取引量が増える結果には大筋賛成です。いわゆる「総論賛成」です。民間企業とすれば、取引量の増加とともに収益増強が見込めるのだから当然ですし、税収増も見込める政府も賛成です。しかし、取引所をはじめとして、まず結果が見えない中で初期コストを投じて新取引所作りやその対応を行う段になると、企業運営の観点からは慎重になります。これまで、取引所の乗り入れに関しては二重行政が一つのネックになってきたという理由もあり、政府方針には懐疑的な部分もあります。特に今回の「検討会」でも、政府側からあらためて、「本当に日本国内に商品取引所を持つ必要があるのか」という問題提起を今更持ち出されるあたり、未だに政府側の決意が伝わってこないことも参加者が政府のイニシアチブを悲観視する要因です。

一方、各省庁の担当者レベルでは相当な危機感を募らせていることも事実です。例えば、経済産業省内での研究会内容を見てみれば、事実認識も問題認識も実務参加者と大差はないと思われます。したがって、あとはアクションプラン実現のために国会で具体的なサポート案を可決する必要があり、きっかけとして少なくとも金融商品先物と商品先物の相互乗り入れを前提とした取引所統廃合を前提とする新取引所創設案を議案としてまとめる必要がありそうです。より重要なのは、参加者が一つのスタンダードで金融商品と商品先物に取組むことができるガイドラインを作っていくことです。具体的には、商品取引所法の改正や取引業者の管轄省庁の一元化から、口座管理、清算機関、税制の一元化に至るまでの道筋を作ることです。

その後、清算機関強化の推進サポート等での調整が官民で行われると業界参加者が確信するまでに至れば、その後は民間企業の自助努力が必要になります。まず、取引所として参加者を喚起するべく、証券会社、先物業者が相互に乗り入れられるようなシステムを構築することになります。法律のサポートがあれば、口座管理や清算の一元化はシステム対応でクリアしていく課題も多いとはいえ、収益増強に資すると判断すれば速やかに行われると思います。さらには、業界内のコンソリデーション(統合)が加速することも期待でき、投資家にとっては使い勝手の良くなる、便利な状況が見込まれます。民間企業は戦略的な投資家拡大施策を講じて初期投資を行うべきです。

グローバル化が進む現在では、19世紀の社会学者マックス・ウェーバーの述べるところの国内取引所の政治的、戦略的価値は多くは見出せないかもしれません。しかし、日本が限られた経済的資源を有効に活用しようと思えば、海外で発展著しい商品取引を少しでも国内に取り込むために、商品取引所の歴史を無駄にするのが得策ではないことは明らかです。雇用促進、海外資金の取り込みを期待できる数少ない金融分野を育成することに国民、政治家の賛同は得られやすいと思います。また、民間企業としては、取引所、証券会社や先物業者などの取引業者にとってみても、国内の新しい取引参加者・投資家が見込まれる分野です。世界最大手の米国年基基金や大手の海外投資家はここ数年徐々に商品関連投資の量を増やしています。国内年金基金も早晩何らかの形で商品投資を増やすものと思われます。この流れの中で、投資家が取引の少ない国内市場を敬遠して、あえて海外取引所を活用する運用会社に運用を委託するようなことになれば、ここでも日本の業者や国全体としても大きな機会損失となります。

官民あげての機運が盛り上がっている時機を逃すと、総合取引所議論は尻すぼみに終わってしまう可能性があります。関係者の皆様、ここが頑張りどころだと思います。われわれも微力ながら今後は金融、商品双方を扱える投資顧問会社という立場から、ユーザーとしての声を伝え続けたいと思います。