白木信一郎の「投資運用苦楽」

第125回 < 2010年 投資環境予想 採点 >

2010年も残り1週間を残すのみとなりました。本年も1年間お付き合いいただき、大変ありがとうございました。2005年に本コラムを始めて以来6回目の年末を迎えるにあたり、今年もこのコラムを書いている2010年12月20日時点の市場に基づいて、年初に行った投資環境予想の採点を行いたいと思います。年初に8項目に分けて市場環境を予想しましたので、項目毎に相場環境を振り返りたいと思います。

(1) ◎ 信用(クレジット)市場は、高値圏での安定推移を予想し、同ヘッジファンド戦略での収益率平均を約10%と予想しました。結果的には、ほぼ想定通りとなりましたので、◎(予想通り)といえます。インデックスによりますが、普通社債や転換社債を中心に投資を行うヘッジファンド戦略の平均リターンは9-12%となり、大きな波乱のない一年となりました。

(2)  ◎ 不良債権市場も予想通り堅調なパフォーマンスを計上しました。米国を中心に大手ファンドがディストレス投資向けの資金を調達し、米国の大型案件への投資も波乱なく収益に結びつきました。日本人にも馴染みのあるGM(ゼネラルモーターズ)のような大型案件への投資が次々と収益貢献した結果、経営危機に陥った米国企業の社債投資が早くも回収時期を迎えつつあります。

(3)  ◎ 商品市場自体は、金(ゴールド)の上昇が目立ったため一年を通じて大きく上げた印象でしたし、コモディティ指数(CRB)は、昨年末283.38から足下の320.62と13%の上昇となっています。しかし、想像していた通り、商品間ではバラつきの多い値動きとなりました。例えば、原油は2010年初に1バレル80ドルで始まった後、65ドルから90ドルを挟む展開となりました。結果として商品先物も投資対象に含むCTAの2010年の運用成績についてもマイナス10%からプラス15%くらいの範囲に散らばり、インデックスでは約5%となりました。

(4) ○ 2010年10月末までは、先進国では予想通りデフレ観測と金利低下局面が続きましたが、年末にかけて米国の金融緩和政策がきっかけになるという皮肉な形で金利が上昇に転じ、インフレ期待が徐々に盛り上がってきています。結果として、金利関連戦略は予想通り5-10%程度のリターンに収まっていますが、最後の2ヶ月は予想と異なる動きになっています。

(5) ○ エマージング市場は、予想通り変動性の高い動きとなりました。中国やブラジルに関しては、年初に大きく下落した後持ち直すという順序になり、ようやく年初来の水準まで戻す程度の動きとなりましたが、中国以外のアジア諸国とブラジル以外の南米諸国の多くは20%を超えるような高い収益率を記録しており、予想通り新興国中心に投資を行うヘッジファンド戦略も軒並み2桁の投資収益率を達成しました。

(6) ◎ 市場変動性(ボラティリティ)については、想定通りの動きとなりました。年前半は市場が安定して推移することでVIX指数も4月には15台前半に低下しましたが、4月後半から5月にかけてのギリシャ問題によって、一気に48まで上昇し、その後足下まで4月のレベルに近づくまで低下しています。年末にかけてジリジリと変動幅が低下する中ではボラティリティ関連戦略で収益を上げることは容易ではありませんでしたが、5月には大きな収益機会が存在しました。

(7) △ 日本の株式市場は夏まで他国市場をアウトパフォームしたあと、他国市場の下げ過程でアンダーパフォームする状況を想定しました。米国株式との比較では概ね予想通りの動きとなりましたが、欧州株式はギリシャ問題や各国財政問題が表面化したことから、下落局面でも日本株を下回る動きとなりました。一方、TOPIXが年間を通じて概ね収支トントンで推移する一方、小型株式やJASDAQ、マザーズ銘柄には年後半に資金が流入することでプラスとなった点は概ね予想していた通りでした。

(8) ◎ 最後に、ヘッジファンドへの資金流入は、予想通り金額としては過去最高額に近いものとなったようです。2008年の金融危機以降リスク回避していた資金が昨年に引き続き市場に戻ってくる一環だったようです。但し、その資金の多くは5000億円を超える資金を運用している大手のヘッジファンドに流入した模様で、500億円未満の資産運用会社にはあまり恩恵がなかったとも言われています。

振り返ってみると、2010年の市場環境予想については的中率が高かったように思われます。様々なヘッジファンド戦略の分析を行っていると、グローバルの様々な資産クラス間での資金循環について俯瞰できるということが理由の一つかもしれません。もっとも、これも自戒を込めて毎年繰り返しコメントしていますが、相場観があっていたからといって収益が上がるとも、相場観が外れたからといって損失が出るとも限らないのが資産運用の常です。また、市場が穏やかに分かりやすく思えるときに突然、ブラックスワンが現れて、想像を超える動きが起こることもあります。2010年が比較的予想をしやすい環境だったということは、来年、再来年は想像もできない市場動向になることの前兆なのかもしれません。今年を振り返り、来年も、その次の年も、どのような環境下でも安定した収益を計上できるポートフォリオ運用ができるよう、細心の注意を払って資産運用に当たっていきたいと思います。