白木信一郎の「投資運用苦楽」

第126回 < 2011年 投資環境予想 >

本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。本コラムを書き始めた2005年から5年以上が経ち、ヘッジファンドを取巻く市場環境は大きく変化してきました。しかし、2008年のリーマン・ショックを経てもヘッジファンドに対する資産運用ニーズは止まらず、むしろ増加しているようです。HFR社の調べによると、2005年末に約1兆1千億ドルと言われていたヘッジファンド投資残高は、現在約1兆8千億ドルへと増加しています。その一方で、2007年までは順調に増加してきたファンド数の伸びは2007年以降伸び悩んでおり、危機移行は大手ヘッジファンド運用会社に資金が集中する傾向が見られます。

投資家の皆様がリスクに対して少し積極的な姿勢をとり始めたように見える2011年が、ヘッジファンド投資にとってどのような年になるか、今年も筆者の年初時点での考えを述べさせていただきたいと思います。

(1)信用(クレジット)市場は、過去2年をかけて危機前の水準まで回復しました。しかし、2008年以前と異なるのは、レバレッジが限定的なことと、流動性の低い仕組債などの発行や投資が少ない点です。2011年は、徐々にレバレッジや流動性の低い商品の組成・投資が回復する年となります。その過程で2010年を若干下回る程度の収益率が見込まれることになると考えています。また、年後半にかけては、2012年から始まる大量のリファイナンスが意識されることから、格付けの高い債券でも価格が緩むことがあると見ています。年後半の不調を勘案して、通年で5%強のリターンを想定します。

(2)不良債権市場は、昨年までに大量に募集された資金の向かう先が限定されることから、底堅い展開を想定します。株式市場、特に中小型株式との相関が高まる傾向があると考えています。これは、リスクマネーの出所が同じとなることと、双方とも流動性が限られている中、資金が安定的に流入すると見ているためです。通年で10%のリターンを想定します。

(3)商品市場は、穀物、エネルギー、非鉄金属等の需給がタイトな状況が続くことから、年前半は投機資金が継続的に流れ込むことで堅調な相場展開を予想しますが、市場の変動性はさらに高まる可能性があります。その中、年後半に掛けて信用(クレジット)市場での変調が商品市場に伝播することで、価格が下落する局面があり、その後は調整局面となる可能性を考えています。通年では5-10%程度のマイナスを想定します。

(4)金利動向は、株式市場と商品市況が堅調に推移する前半にイールドカーブがスティープしながら上昇する、ベア・スティープを想定しますが、年後半に掛けてその流れが一服、反転する状況を想定します。前半は金利関係の運用者は収益を上げにくい環境ですが、後半から持ち直す状況を想定します。金利系の運用者は通年ではフラットのパフォーマンスを想定します。

(5)エマージング市場は資金流入が一服する中、2011年は先進国並みのリターンと抑え目の動きを想定します。各先進国で設定される新興国向け投資信託からの資金流入は安定的に続くことから、プラスのリターンが期待できるものの、各国政府が急速な資金流入に神経質になっていることから、機関投資家は投資に慎重な姿勢となることが背景です。

(6)市場変動性(ボラティリティ)については、2010年と同様に前半に低位で推移した後、2011年中旬から後半に掛けて振幅が大きくなる局面が来ることを想定しています。ボラティリティを買持ちにするような戦略では、通年でプラスのリターンを期待できると考えています。

(7)日本株式市場は、2010年後半からの流れを引継いで、堅調な動きを想定します。特に、中小型株式に資金が回帰することから、個人投資家資金も市場に戻りながら相場全体を徐々に押し上げる環境を考えています。リターンとしてはTOPIXで5-10%、小型株インデックスで15%程度を想定します。

(8)最後に、ヘッジファンドへの資金流入は2011年も2010年の流れを引継いで金額としては増加することを想定します。2010年との相違点としては、大型ファンドへの流入が大幅に小型・中型ファンドへの流入を上回った状況とは異なり、投資銀行から流出する人材が設立する新規ファンドや小型で堅実な運用者とのマネージドアカウントの設定などを通じた資金が増加するという点です。

2011年も総じて堅調な相場環境を予想していますが、本予想に対して、実際の相場が良好なパフォーマンスを上げるような環境となった場合、2012年以降の相場急落やバブル崩壊的なリスクを溜め込む懸念があります。特に2012年以降2014年にかけて各国金融機関が抱えるリファイナンスのリスクが顕在化する局面では、プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンドという受け皿が磐石なものにならない限り、一旦は相場急落を演じる可能性を高めることになると思います。2008年のレッスンはまだまだ生々しく人々の記憶に残っており、兎年ではありますが、来年以降の火種を溜め込まない程度に、今年はあまり相場が跳ねない状況を予想しています。今年も皆様にとって良い年になりますよう、お祈り申し上げております。