第372回 < SPAC銘柄からみる米国株式の状況 >

昨年の秋ごろ、本コラムで取り上げたSPACについて(第354回 SPAC (Special-purpose Acquisition Company)による上場について | あいざわアセットマネジメント株式会社 (akebono-am.com))、新聞を中心にメディアでも多く取り上げられるようになりました。米国において、2020年のSPAC上場は248社で約834億ドル(約9兆円)に及び、2021年7月初め時点で、昨年1年を超える、362社で1,117億ドル(約12兆円)の規模まで増加しました(SPAC Researchより)。この隆盛をみて、日本においても今年に入って、SPACを活用した上場を導入するかの検討がなされているようです。

私どもの米国投資先にも、SPACを活用した上場案件が複数みられます。SPACによって対象企業が買収され、実態のある未上場企業が上場SPACと合併(De-SPACと呼ばれます)することで市場での取引が可能になった後の株価は、高値圏で取引されつつ、株価変動率も極めて高い水準で推移する状況を目の当たりにしています。SPACを活用した上場の仕組みを考えると、一般的に、未上場株式を買収する側で、先に上場している特別目的会社を当初設立したスポンサーは、事業を担う創業者株主というよりは、5年程度の保有期間を前提としたキャピタルゲインを目的とした大株主ではないかと考えられます。

通常、De-SPAC後の一定期間、それらの大株主は通常3ヵ月から1年程度のロックアップ期間を設けられ、株式の売却ができません。前述したように、SPAC銘柄の多くが、この1年でDe-SPACした状況であることを考えると、今後半年から1年の間に相当のスポンサーの株式保有分のロックアップ期間が切れ、売却可能な期間に入ることとなります。それらの大株主の多くは、プライベート・エクイティ・ファンドの運用者や、著名投資家であることから、ある程度の期間の保有を前提にしており、かつ、売却についても市場状況をみながら、市場を崩さないような慎重な売却を行うことが予想されるものの、マーケット全体に相当の売却圧力がかかるのではないかと推測しています。

多くのSPACは、電気自動車関連やバイオ関連、宇宙関連といったテクノロジー銘柄であり、株式価値は、将来の高い売上、利益成長速度を見込んだ価格付けとなっています。したがって、足下の赤字や多少の売上成長の鈍化を無視して高い価格が維持することとなっていますが、同業種の中にかなりの数の新興企業がひしめき合っている状況にも見えます。今後、同業種の中で優勝劣敗が明らかになるにつれ、現在の株価を維持できない銘柄も出てくるものと推測されます。その際、大量に株式を保有している大手投資家の売り圧力があいまって、株価変動率はさらに上昇する状況も想定されます。

多くのSPAC銘柄の大手株主保有分のロックアップ期間が切れるであろう、今年の年末にかけて、米国株式市場の動向を注視しておきたいと思います。