第386回 <  ロシアのウクライナ侵攻について >

ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を開始した2月24日から、2週間が経過しています。毎日メディアを通じてウクライナでの痛ましい惨状が映し出されています。このような戦争を引き起こしたロシアのプーチン大統領及びロシアという国に対する各国の経済制裁が徐々に強化される一方、ロシアによるウクライナ侵攻が継続されている現状は異常に感じられます。無知故に、このような状況がなぜ起こったのかを知らず、そして今後どのようになるのかについて思考を巡らせることもできないことは許されないと思われ、歴史や政治が関わる難しい問題ですが、出来る限り簡潔に背景と今後の展望についてまとめてみたいと思います。

なぜ、ウクライナ侵攻が起きたのかについては、プーチン大統領がウクライナを兄弟国家と呼び、昨年の論文でロシア人とウクライナ人が一つの国民であるという持論を展開するように、ロシアは旧ソビエト圏の中でも近い存在であったウクライナに対して強い思い入れを持っていることが一因と言われています。2014年3月に起きたクリミア問題では、ウクライナでのロシア寄り政権から欧米よりの政権への移行をきっかけに、ロシア系の住民が多いもののウクライナの領土と見なされていたクリミア自治共和国(当時)をロシアが制圧し、ウクライナからの独立という形を取りながら、クリミア共和国として実質ロシアの領土として併合しました。

また、ロシアにとって、ウクライナは西側諸国との緩衝地帯であり、ヨーロッパ及び北米の30か国によって構成されているNATO(北大西洋条約機構)に加盟していない隣国です。NATOは、第二次世界大戦終結後に米国、英国が中心となり、ソビエト連邦に対抗するための西側陣営による軍事同盟として誕生した経緯を考えると、現ロシア政権はNATOがこれ以上東方に進出し、ウクライナがNATOに加盟することは許容できないと考えているようです。

プーチン大統領は、2000年に大統領に就任した際、1990年からロシアからの独立を掲げたチェチェンの独立阻止を目的とした軍事行動(チェチェン紛争)を、首都グロズヌイを制圧するなど強硬な手段で推し進め、累計で20万人近いチェチェン人犠牲者を出したと言われる紛争を終結させました。このように、近年でもロシアは連邦国内において活発に軍事活動を行っていました。これまでの背景や経緯を踏まえると、プーチン大統領がロシア領土内の支配維持を理由とした軍事行動に躊躇を持たないことが伺えます。

今回のウクライナ侵攻の目的は、現ウクライナ政権の転覆及び親ロシアの傀儡政権樹立であり、大戦力を投入しての短期決着を目指していたものと考えられます。しかし、侵攻開始から既に2週間が経過し、SNSをはじめとした新時代のメディアによって、戦争の事実とウクライナの惨状が世界中に拡散したことで、ロシアの軍事行動及びプーチン大統領の決断に対して、様々な形での大きな反対の声が、そして、ウクライナに対する支援の声が力を伴って届けられるようになっていると感じています。

歴史学者であり、哲学者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏は、英国ガーディアン紙への寄稿で以下のように述べています。

「(一部抜粋)ウクライナでの戦争は、世界全体の未来を左右するだろう。もし圧政と侵略が勝利するのを許したら、誰もがその報いを受けることになる。ただ傍観しているだけでは意味がない。今や立ち上がり、行動を起こす時なのだ。
あいにく、この戦争は長引きそうだ。さまざまに形を変えながら、おそらく何年も続くだろう。だが、最も重要な問題にはすでに決着がついている。ウクライナが正真正銘の国家であり、ウクライナ人が正真正銘の民族であり、彼らが新しいロシア帝国の下で暮らすのを断じて望んでいないことを、この数日の展開が全世界に立証した。残された大きな疑問は、ウクライナからのこのメッセージがクレムリンの分厚い壁を貫くのに、あとどれだけかかるか、だろう。」

今回の問題の本質について学び、今後起きるであろうこと、我々に対する影響、取るべき行動などについて、考えを巡らせて行きたいと思います。