第399回 < 米国政策金利の行方 >

足下の株式市場の調整や米国債券価格の下落に代表される、グローバルのリスクマネーの収縮は、インフレ抑制のために米国が急激な金利引き上げと、国債などの保有資産を減らす量的引き締めを実施した結果と言えます。過去にも、1979年にFRB議長に就任し、その後「インフレファイター」として知られるポール・ボルカー氏のもと、当時米国は大幅な金融引き締めを預金準備量の調整で行いました。通貨供給量の伸びを抑制したことでインフレ抑制は達成できましたが、政策金利がコントロール不能な水準まで上昇し、その後乱高下を繰り返しました。

今回、2018年に第16代議長に就任したジャローム・パウエル議長は、2021年に突如高まり始めた米国のインフレ率に対して、インフレの方向性が当面不可逆であることを確認した2022年3月以降、フェデラル・ファンド(FF)金利の引き上げをはじめ、6月には量的引き締めに着手しました。その後、FF金利の上昇幅を毎回0.75%としながら、直近の9月20日、21日の連邦公開市場委員会(FOMC)でFF金利の誘導目標を2.25~2.5%から3.0%~3.25%の水準へと引き上げています。現時点で、この傾向は今年末まで続くと見られ、2022年末には4.4%、2023年末には4.6%と見込まれています。リスクマネーの収縮によって、機関投資家の有価証券投資ポートフォリオは大きく毀損していますが、今回の金融政策について投資家は概ね理解を示しているように感じます。これは、FRB議長であるパウエル氏をはじめ、当局の市場に対するメッセージが極めて明確であることに起因しています。

毎年開催される年次シンポジウムのジャクソンホール会議の場で、今年は8月26日にパウエル議長がどれだけタカ派(金融引き締め政策に積極的)なスタンスでの講演を行うかに注目が集まっていました。結果、パウエル議長は、市場関係者が想像していた中で最もタカ派よりの発言を行っています。特に、締めくくりのコメントの中で「That brings me to the third lesson, which is that we must keep at it until the job is done.」(「やり遂げるまで続けなければならない」)と、インフレ抑制を達成するために当面の金融引き締めの継続について強い意志表示をしています。その後、前述のように9月のFOMCで0.75%の政策金利引き上げを実施しています。その際、市場に大きな混乱は見られず、現在、市場参加者がFRBの姿勢について正しく理解しているように思われます。

FRBが足下の景気動向や雇用の状況よりも、米国インフレ指標に注目して金利政策を決定していることが明らかな現在、変数が少ない分、市場関係者は金融政策を予測しやすくなっているといえるかもしれません。したがって、今後の物価情勢によって政策金利の上昇幅は変化することになりますが、今後2023年末までの15か月間で政策金利は概ね4%台半ばまで徐々に上昇していくことが見込まれています。今後物価に関して想定外の事象が起きない限り、米国の政策金利の変化、水準を織り込みやすいことは、市場参加者のみならず、事業者や個人にとっても大きな安心材料となり、経済活動を行いやすい環境といえます。

日本におけるゼロ金利維持の政策については、目標にしていた物価上昇率2%を達成した後も景気下押しを懸念して解除のできない状況が続いています。そのため、日本においての金利政策については不透明性が高まっている状況です。一方、足下景気を犠牲にしてでもインフレ抑制に舵を切ったFRB及び米国への信頼が高まることで、中期的には資金の流れがあらためて米国市場に向かうことも考慮に入れ、今後の投資戦略を立てていきたいと考えています。