第398回 < 欧米でのプライベート資産セカンダリー市場の足跡 >

私どもが投資活動を行っている、プライベートエクイティのセカンダリー市場ですが、過去に仕組債やデリバティブ等の他の金融商品で経験したように、日本の市場は欧米の後を追う傾向にあります。したがって、欧米における市場の発展の歴史を見ておくことは、セカンダリー投資を行う私どもにとって必須だと考えています。

グローバルにおけるプライベート資産のセカンダリー市場では、1998年に米国大手のエネルギー大手のシェルの企業年金がPEポートフォリオを売却したLP(リミテッドパートナー)セカンダリー取引や、2001年にベル研究所が保有する17のテクノロジー企業の保有株式をファンドに売却したダイレクトセカンダリー取引が初期の代表的な取引として知られています。その後、2003年にドイツ銀行が保有していたPEファンドのLP持分を当時の時価で1000億円以上売却するなど、徐々に規模が大きくなりました。その頃から、欧米では、プライベートエクイティのセカンダリー買取を専業とするファンドの組成が徐々にみられるようになりました。

2008年の金融危機時には、一時的に買値と売値の価格差が開きすぎて取引が成立しなくなりましたが、その後2009年の後半から取引が活発化し、2011年には欧米を中心に2兆円以上のセカンダリー取引が成立しました。2013年に入り、上場株式市場が堅調に推移する中、多くの投資家が非流動性資産の売却を見送ったことでセカンダリー市場の伸びが鈍ったかのように見えましたが、プライベート資産も同様に価格上昇した結果、ポートフォリオのリバランスを目的とする投資家の売却がその年の後半以降加速しました。

更に、2015年以降、PEファンドのGP(ゼネラルパートナー)が主導するリストラクチャリング案件をセカンダリーファンドが引き受ける事例がみられるようになりました。例えば、過去に破綻した投資銀行系の2006年ビンテージのバイアウトファンドが新しい器を作りポートフォリオを移管する形で初期のGP主導のリストラクチャリング案件が成立しました。その後、PEファンド市場の成長に合わせ、セカンダリー取引は右肩上がりに増加しています。

ここ数年は、毎年のように記録的なセカンダリー取引量の増加が認められていますが、その背景はいくつか考えられます。まず、プライベート資産の市場全体の規模が右肩上がりの成長を続けていることです。米国では、この20年間でバイアウト等による未上場化の増加を背景に上場企業数が半減する一方、時価総額の大きな未上場企業が増加しています。世界中で時価総額1000億円を超える未公開企業、いわゆるユニコーンの数が増加し、その50%以上が米国企業です。これらの未公開企業は多くのベンチャーキャピタル等に支えられており、それらのファンドの投資額も右肩上がりです。このようなプライベート資産市場が成長を続ける中、セカンダリー市場へのニーズが高まることは当然のことであり、その成長の大きな要因となっています。

次に、非流動性資産を保有する投資家層の広がりと、それらの投資家によるプライベート資産の売却ニーズの多様化も理由として挙げられます。過去、プライベートエクイティ投資は、リスク許容度が高くプライベート資産に関しては長期保有を原則とした投資家によってのみ行われてきました。しかし、市場の成長とともに投資家の裾野が広がり、様々な種類の投資家がプライベート資産を持った結果、売却のニーズも多様化しました。このような状況下、セカンダリーでの買い手も徐々に増加したことで、取引量が年々増えていると思われます。

現在、欧米でのセカンダリー取引では、GPが主導するリストラクチャリング取引が増加しています。日本では、欧米に5-10年程度遅れながら、同様の経路を辿っているように思えます。私どもは、2018年に国内で初めてのGP主導のファンドリストラクチャリングでのセカンダリー投資を実施し、その後も様々な案件種類を経験しています。幸いないことに、私どものセカンダリーファンドの投資家には、米国の基金や米国でセカンダリー投資専門の運用を行っている方々がいるため、グローバルの最新事例についても常に学ぶ機会があります。今後も欧米の先行事例を学びつつ、日本に独特の取引事例にも対応しながらPEセカンダリーのリーディングカンパニーを目指して活動を続けていきたいと考えています。