第397回 < 日本におけるセカンダリー投資の発展について >

私どもが、プライベートエクイティ(PE)のセカンダリー投資ビジネスを開始し、最初のファンドを設立したのは2015年になります。そのころ、私どものセカンダリー投資業務をご説明すると、物珍しい目で見られることがほとんどでした。バイアウトファンドやベンチャーキャピタルへの投資は、通常10年以上コミットすることが求められており、期間の途中で解約することはできません。しかし、投資家の中には、やむに已まれぬ理由で、ファンド存続期間中に売却をするケースがあります。その場合、売り手は買い手を見つける必要があり、相対での交渉することになるうえ、運用者であるGPに許可を求めることになります。国内のPEファンド市場の成長は、投資の数や規模において、この10年で目覚ましいものがありますが、その頃はセカンダリー取引の実例が少なかったこともあり、あまり目立った存在ではありませんでした。

一方、欧米では、2000年以降、PE投資が急速にその残高を増やす中、未上場株式、あるいはファンド持分のセカンダリー取引は増加し、特に2008年の金融危機以降に取引残高が大きく伸びることとなりました。その中で、セカンダリー投資ファンドの数と資産規模も大幅に増加しましたが、日本、アジアではそれらのファンドの登場は遅れていました。

日本では2010年以降、バイアウトファンドの組成が急増し、さらに2013年前後を契機に独立型のベンチャーキャピタルの設定が増え、少し遅れてコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の組成が急増しています。2022年現在、その当時、多く設立され、活発に投資を行っていたバイアウトファンドやベンチャーキャピタルが10年、あるいは延長後の12年の満期を迎えはじめています。当然、それらのファンドのポートフォリオの中には回収の終わっていない投資銘柄が幾分残るケースが見られます。

また、当時、ファンドに投資を行っていた投資家の皆様の中には、いろいろな事情からファンドの組合持分を売却するニーズをお持ちの方も出ています。このような低流動性資産を現金化する方策として、私どもの運用するようなセカンダリーファンドへの売却を企図する投資家やファンド運用者が増えるのは、欧米での歴史を参考にするまでもなく、当然のように思えます。実際、私どもがセカンダリー投資ビジネスをはじめた2015年と比較して、ここ数年のセカンダリー市場での売却を検討される方々の数の増加には驚かされるほどです。

私どもの試算では、今後2-3年でセカンダリー市場の取引量は、主に売手側の事情によって倍増することが見込まれています。一方、未だに未上場資産のセカンダリーの買い手の数は限られており、この市場は国内においては黎明期と言えます。しかし、欧米での歴史を見れば、今後5年程度でこの業界が急速に成長するのではないかと考えています。

2015年の1号ファンド設立以降、私どもはPEセカンダリー投資の実績を積み重ねています。今年、2022年には3号ファンドを設立し、募集及び運用を開始しています。これまで、国内においてPEファンド持分、及びファンドの保有する未上場株式などのセカンダリー取引の事例が限られていた中、私どもは、1号ファンド以降、国内外の取引を数多く経験してきました。当初、日本国内の事例が少ないため、国内で初めてとなる取引種類も多く、海外での事例を参考にするなど、手探りでここまでやってきました。幸い、経験豊富な米国の投資家がこれまで私どものファンドに出資をして頂いたこともあり、様々なアドバイスを受けられたこと、また、ファンド運用業務に精通したメンバーが当初からファンド運営に関わってくれたうえ、ここ数年で育ったチームに恵まれ、次の成長への準備は整ってきたように思います。

欧米でのセカンダリー投資の発展の歴史を振り返り、また、国内でのPE市場の状況を見ると、これからの5年が国内セカンダリー投資ビジネスの発展の正念場だと感じています。国内セカンダリー投資ビジネスを健全に発展させることは、日本のPE市場のエコシステムの一角を強くすることにほかならず、それは、市場全体の成長のカギの一つだと信じています。現在募集している3号ファンドにこれから加わっていただくパートナーの皆様、そして当社メンバーとともに、強い倫理観を持って、持続成長可能なPEセカンダリー市場の発展に尽くしたいと考えています。