第396回 < ディープテック領域へのセカンダリー投資について >

私たちがセカンダリー投資を始めてから6年以上経ち、これまでに様々な投資案件を経験してきました。セカンダリー投資の対象として、設立後比較的時間の経過したベンチャー企業の株式を取得することがあります。それらの会社の設立当時は、時代の最先端のテクノロジーを研究し、実用化を目指していたとしても、私たちがセカンダリー投資の対象として調査をするタイミングでは、設立後10年以上が経過した会社であることも珍しくありません。当時は最先端のテクノロジーに取組んでいたとしても、10年の間に企業が大きな成果を上げられないまま、技術自体が陳腐化、あるいはコモディティ化してしまうケースというのも多く見られます。

最近よく耳にする、ディープテックの領域も時間の経過とともに対象は変化してきました。ディープテックとは、「大学や研究機関で長期間にわたり研究開発が進められてきたような最先端の技術、また、世の中に大きな変化をもたらす技術」と定義されています。例えば、現在ディープテックの領域と言われているのは、「人工知能(AI)」「ロボット」「自動運転」「月面探査」「精密医療」「量子コンピューティング」「バイオテクノロジー」等です。これらの多くは10年前にはビジネス化への道筋ができていなかったものです。20年以上前であれば、インターネット関連分野がディープテックと言われていたかもしれません。

かといって、セカンダリー投資によるかつてのディープテック企業の株式取得に意味がないというわけではありません。最先端のテクノロジーを活用してビジネス化することは、必ずしも短期間に成し遂げられるわけではなく、一般的なベンチャーキャピタルのファンド期間である10年あるいは12年程度では大きな成果が出ていなくても不思議ではないからです。コアテクノロジーの中には、「半導体」に代表されるように長い年月をかけて周辺技術の革新が行われていく分野もあります。例えば、私どもの投資対象の中には、半導体の微細加工に欠かせないレーザー技術の分野で優れた実績を持つ会社があります。

創業後、約20年が経過した同社ですが、これまでの間、資金面では多くの技術系ベンチャーキャピタル(VC)に支えられてきました。しかし、多くのVCは投資保有期間が延長期間を合わせても12年に限定されています。したがって、その期間内に上場や他社による買収などのイベントが起こらない場合には、保有している株式を売却せざるを得ないこともあります。私どもは、セカンダリー投資を通じて、このような会社の株式をお引き受けすることがあります。それは、これまで会社を支えてきた株主の方々の想いを引き継ぎ、長期にわたって技術を磨いてきた会社の成功を願いつつ、既に上場等が視野に入り、当社としては比較的短期にリターンを回収できる可能性が高まっているという判断の下での投資になります。

現在のディープテックと言われる領域で起業した会社が10年後どのような姿になっているかは想像がつきません。しかし、私どもがセカンダリー投資を続けている限り、これらの領域の企業の株式を将来取得する可能性は高いと思われます。そのためにも、新しい技術に対して常に興味を持ち、また、学んでいきたいと思っています。