第403回 < 2022年の振り返りと2023年市場予想について >

2022年最後のコラムとなりました。少し早いですが、本年も1年お付き合いいただき、たいへんありがとうございました。2022年はロシアのウクライナ侵攻、長引くコロナ禍の影響や米中関係の悪化によるサプライチェーンの断裂、急激な物価上昇を起因とした想定以上の米国金利の引き上げなどが、市場に対する大きな影響を与えた事象でした。2020年3月に表面化したコロナ禍が市場に影響を与えてから約1000日が経過しました。

その間、各国の財政政策、金融緩和姿勢もあり、コロナ特需ともいえる株高を経験しました。しかし、2022年は年央にかけて、ウクライナ侵攻とインフレ対応の金利高から大きな株価下落となりました。その後、中国などの一部を除いた多くの国では、コロナ前に戻る動きが加速し、グローバルの往来が戻るとともに消費も復活し、物価高の過程で施品価格への転嫁に成功した企業の業績も回復する等、株価も年初のレベルまで戻った1年となりました。

現状、欧米での景気指標の悪化サインや、中国における不良債権問題がいよいよ表面化するとの思惑から、市場参加者の多くは株式市場について慎重な見方を崩していないように見えます。そのような環境下、来年の各市場について考えてみたいと思います。

1.クレジット市場は米国の投資適格債、ハイ・イールド債ともに、2022年は米国の金利上昇を受けて厳しい環境を経験しました。S&P500の債券指数をみると、インフレと金利上昇への不安がピークをつけた10月には年初来で一時20%近い下落となり、社債の変動幅としてはかなり大きいものとなっています。しかし、足下のデフォルト率が抑制されていることもあり、年末にかけてやや戻しています。2023年については、金利上昇のスピードが抑制されることが想定される反面、デフォルト率の上昇が考えられます。デフォルト率上昇の影響が大きいハイ・イールド債を中心に、2022年に引き続きマイナスのリターンを予想します。

2.商品市場については、2021年の大幅上昇の地合いを引き継ぎ、2022年前半は大きく値を上げました。たとえば、WTI原油価格が3月と6月にそれぞれ一時120ドルを超えるなど、ウクライナ情勢の深刻化にあわせて、エネルギー価格の高騰が商品価格全体に影響を与える状況となりました。しかし、エネルギー市場における過度な悲観ムードが後退する中、原油価格をはじめ、コモディティ価格全体もある程度の落ち着きを取り戻し、12月初めの時点では、原油価格は年初の価格にまで戻しています。2023年は景気減速の影響も受けて、物価の高騰は一服するものと思われ、CRB指数などは横ばいを予想しています。

3.金利については、2022年初時点の予想から大きく乖離し、比較的ハト派かと思われていたパウエル議長の指揮の下、米国はインフレ封じのために大幅かつ継続的な金利上に踏み切りました。結果として、11月にFOMCで米国の政策金利は4%となっています。12月のFOMCでは、これまでの0.75%の利上げ幅から0.5%に縮小され、政策金利が4.5%となることが想定されています。一方、長期金利である10年債は約3.6%となっており、景気後退を示唆すると言われている逆イールドの状態が継続しています。2023年前半にはFOMCでの利上げが完了し、最終的な金利は5%を上限とし、景気後退を確認したタイミングでは、徐々に切り下げられることが想定されます。2023年末の政策金利は4.0%、長期金利も同様の4.0%近辺での推移になると考えます。これは、ある程度物価上昇が抑制される中、実質金利と潜在成長率が2.0%で均衡するポイントです。日本における長期金利水準は、昨年末の予想通り、徐々に切りあがり、10年債で0.25%となりました。日銀が発行済み日本国債の半分を保有し、海外投資家による保有比率が上昇する中、金利はさらに上振れリスクを抱えており、2023年末には0.75%程度まで上昇するものと考えています。

4.エマージング市場は、2021年にはコロナ禍の収束に先んじて堅調に推移しましたが、2022年は年間を通じて下落が目立ちました。中国ではコロナ禍に対する政策として、引き続きロックダウン政策が敷かれたことで景気が悪化し、上海総合指数が4月末を底に、いったん持ち直したものの、10月末に二番底をつけるなど、弱含みの展開となりました。新興国株価指数をみると、物価高や米国金利高の影響から資金の逆流が目立ち、2021年初の水準から大きく値を落としています。東南アジアにおいても、新興企業を中心とするグロース銘柄中心の上昇が、金利高を契機とするバリュエーション調整を受けて、大きく値を下げ、2023年にかけても、状況が急回復することは見込めていません。したがって、2023年もエマージング市場は前半下落傾向となり、年央にかけて投資家の目が再び、市場成長に目が向いたところで回復するという経路を辿ると考えています。

5.2022年の市場の変動率VIX指数は、年初に16台と低位でスタートしたものの、2021年とほぼ同様のレンジでの推移(16.34-38.94)となりました。12月初めの時点では、足下の株式市場の回復から19台と安定した市場の状況をしめしています。2023年については、景気悪化と金利上げ止まりが綱引きをする結果、株式市場はレンジでの横ばいを想定しており、結果としてVIXも大きな変化はないものと考えています。しかし、 デフォルト率が悪化し、破綻する企業が増加することや、中国における不良債権問題の表面化に伴い、一時的にVIXが40台を超えることはあるものと考えています。

6.最後に2022年の日本株式市場は、主にグローバルの地政学的な問題の影響を受ける形で下げる局面が何度かありましたが、年末にかけて年初の水準まで戻してくる展開となりました。コロナ禍の最悪期から脱した業種の反転もあり、また、財務的には健全な状況を保っている企業が多いことで年末にかけて総じて堅調となりました。昨年同様に市場の需給が悪化していること、地政学的なリスクが存在し続けて、また景気鈍化懸念もあり、上値は重い展開が続いています。2023年の相場展望は、日本独自の要因に基づき、多少強気の見方をしています。長引く米中問題の影響から、グローバル投資家がアジアへの資産配分を考えたときに日本を候補に入れるケースがかなり増えてきたと感じています。これは、投資家の資産配分のみならず、グローバル企業の取引先として中国企業にかわって、日本企業を選定するケースにもあてはまります。また、円安の進行や長引いたデフレの結果、コストの安い日本に対する買いが入りやすい状況となっています。したがって、2023年を起点として、日本株が他国株式をアウトパフォームする局面が増えるのではないかと考えています。

本年最後のコラムとなりました。今年も大変お世話になり、ありがとうございました。皆様が心安らかな年末をお迎えになり、来年が素晴らしい年になりますことをお祈りしております。2023年の干支、「癸卯(みずのと・う)」は、物事の終わりと始まりを意味する「癸」と、春の訪れを感じる「茂」が由来と言われている「卯」の組み合わせです。これまでの努力が実を結び、勢いよく成長する年であると言えそうです。私どもも、今年組成した新しいファンドの募集を来年中にしっかりと終え、勢いよく成長する年としたいと思います。引き続き、よろしくお願い申し上げます。