第301回 < 最近のインバウンド向けビジネスについて >

2015年12月に本コラムでインバウンドについて書いてから2年半が経ちました(http://www.astmaxam.com/mailmagazine/mail.php?detail=241)。その後の訪日観光客数は大きく伸び、2017年には28百万人、更に2018年に入ってからも勢いはとまらず、年間30百万人を超えることになりそうです。インバウンド旅行客数に関して、日本と同じ島国であり、大都市ロンドンを擁するイギリスは年間35百万人を海外から迎え入れており、これがひとつの基準になると考えていました。しかし、近年の訪日観光客数の伸び率を見ていると、日本は今後2-3年でイギリスを抜き去り、海外からの訪問客50百万人以上のイタリアにも迫る勢いです。やはり人口が急増するアジア圏にあり、特に年々海外旅行者数が増えている中国が近くにあることの影響が大きいと思われます。実際、2017年は中国からの訪日客が730万人と、この3年間で3倍近く増えたようです。

一方、訪日客を受け入れるための宿泊施設の整備は当時からの課題です。ホテルやカプセルホテルなどの宿泊施設の建設がいたるところで行われていますが、訪日客の増加数に追いついているとは言いがたい状況です。また、エアビーアンドビーに代表される、いわゆる民泊ビジネスについては、新しい法律の施行や取締りの強化が図られていますが、オペレーションが確立しているとはいえなさそうです。また、レストラン等で、海外からの団体客の受け入れ態勢が整っている飲食施設も限られているようです。

インバウンド訪日客は東京をはじめとする主要都市、観光名所を巡るだけではなく、日本における安全で美味しい「食」を求めていると言われています。一方、観光地などで中国や東南アジアなどから団体で訪日する人々に対して品質の高い「食」や「サービス」を提供することは、これまで大変難しいものがありました。そもそも、数十人規模の団体を一度に受け入れるレストランが限られていますし、異なる言語でのコミュニケーション、現地の特色を出しつつ訪日客にあわせたメニューの提供、頻繁に発生するキャンセルへの対応等、相当のノウハウが必要です。

更に、かつて日本人の海外旅行スタイルが大きく変遷したように、アジア諸国でも、団体旅行ツアーが多用される時期はいつか終わりを迎え、個人旅行客(FIT)が中心となる時期が始まると思われます。訪日団体客に対応できるように開発した大箱レストランもいずれは役割を終えることになり、想定よりも早くFITへのシフトが進んだ場合、ビジネスモデルの転換を迫られるかも知れません。

そんな中、地方を本拠地として、海外の現地の旅行会社等と提携し、国内のコールセンター等を整備しつつ海外からの旅行客の「食」を満たすビジネスを展開して急成長している会社があります。「宿泊」、「食」、「文化」、「体験」などがインバウンドビジネスのキーワードとしてあげられますが、訪日客が急増しているこの5年間で、各分野におけるビジネスの原型が出揃い、かつ先行者メリットを享受する企業がでつつあるように思います。インバウンドの「食」に特化して急成長している前述の会社が、環境の変化が早いこの分野におけるリーディングカンパニーになれるのか。また、エアビーアンドビーに代表されるような新しい形のビジネスがこれからどのように成長していくのか、興味深く見ていきたいと思います。