第307回 < 東京湾でのキス釣り >

これまで釣りには縁がなく、子供の頃に何度か池や海で経験した程度でした。今回、東京湾で舟釣りをする機会に恵まれ、季節をあまり問わないシロギス狙いで、木更津沖を含め、湾内の何箇所かで4-5時間ほど釣りを楽しみました。同行した子供達の中には餌になるゴカイに触れなかったり、釣れた魚を釣り針から外せない子もいたため世話にだいぶ時間もとられたこともありますが、のんびり糸を垂れるというイメージに反して、釣りは意外に忙しいということを知りました。

上級者の方は準備にかかる作業が素早いことから、釣り糸をたらしている時間が長いかもしれませんが、私のような初心者はひたすら作業を繰り返しているような気がしました。それでも、お目当てのキスや、それ以外にも小ダイ、フグやトラギスなどを数匹ずつ釣ることができました。同行された方の中にはイシモチやサメを釣り上げている方もおり、釣り船の船長や同行者の皆様のおかげで楽しい釣行となりました。

自分で全てを準備する釣りとは違い、今回のような舟釣りは、釣竿や仕掛け、餌の用意などを全て釣り船の方に事前に準備していただいており、実際に自分が行うことは、餌を針に付け、船外に糸をたらし、アタリを頼りに引上げ、餌や針をとられていたら付け替え、釣れれば魚を取り込むという作業の繰り返しです。船長は客の釣果を見ながら、巧みに魚影を追って釣れそうな場所に移動を繰り返します。熟練した釣り客は、運がよければ1日に100匹以上のキスを釣り上げると聞きましたが、初心者にとっては、どんなに入れ食いの状態であったとしても、とても無理な数に思えます。

釣り以外にも言えることですが、経験を積むことで諸々の準備にかかる時間を短縮し、成果につながる本番にかける時間を長くすることが重要だと感じました。釣果自体は、当日の天候や潮の流れ等に大きく左右されるものの、熟練した船長による場所の見極めに因るものも大きいようです。また、当日釣ろうとしている魚にあった仕掛けを決めて用意しておくことも大事とのことです。やはり、行き当たりばったりで適当な場所から適当な仕掛けで行う釣りと、これだけ入念な準備をしながら経験豊富なガイドと同行する釣りとでは釣果に大きな差がでるわけです。

私たちが日々の投資を行う際にも似たような状況を見ることがあります。私たちが投資を行う場合、準備に膨大な時間を要します。投資対象を探し出し、調査し、リスクとリターンを分析し、交渉し、法務や税務面の安全を確認するなど、長い場合には1年近くかかる作業もあります。その上、流動性の低い相対案件の買取りの場合などは、競合相手に入札価格で競り負けて投資機会を逸することも起こりえます。どんなに経験を積んだ熟練した投資家であっても環境や運によっては成果が出ないことも起こりえます。それでも、忍耐強く、作業を継続することが最終的な成果の鍵になります。

投資対象を釣りたい魚の種類、魚影の探知を投資対象の探し出し、仕掛け作りを投資ストラクチャ組成や法務、税務面の確認、そして調査、実際に釣竿を出してアタリを探る作業は売却先との交渉、最後に釣った魚をバラさないように取り込むのは投資執行実務というように、いろいろと重ね合わせて考えてしまうのは、もう完全に職業病かもしれません。

当日、釣った魚を持ち帰り、捌いて食すのも釣りの醍醐味です。キスはうろこを引き落とし、下処理をした後に開きにして天ぷらです。船上で料理して頂いた天ぷらと比べても美味しく感じました。小ダイは炊き込みご飯にして二日連続で美味しく頂戴しました。釣りは、釣果をこのように調理して皆で頂くことができるという面でも楽しめるレジャーです。初めての経験に思いのほか疲れたのか、この日は久しぶりにぐっすり熟睡しました。機会があれば、別の場所で別の魚にもトライしてみたいと考えています。