白木信一郎の「投資運用苦楽」

第264回 < 人口知能(AI)とヘッジファンド >

前回のコラムで、最近のヘッジファンドのリターン低迷について触れました<a href=\” /mailmagazine/mail.php?writer=2&detail=262\” target=\”_blank\”>(第263回 最近のヘッジファンドのリターン低迷について)</a>。一方、足下でも好調な成績を出し続けているヘッジファンドの中で、人工知能(AI)を活用していると言われているファンドが脚光を浴びています。代表格としては、近年、急速に資産規模を拡大し、現在約4兆円の資産を運用しているTwo Sigma Investmentsがあります。もともと、マクロ戦略の老舗であるTudor Investment のチーフ・テクノロジー・オフィサーであった、David Sigel氏とクオンツ運用の老舗であるD.E.Shaw出身のJohn Overdeck氏によって設立された運用会社なのですが、2001年に設立されて以来、急成長を遂げました。現在は、数学オリンピックの金銀メダリスト8名を含む数百人のサイエンティストを擁し、10,000以上のデータソースから、22百万ギガバイトのデータを入手し、データの解析と運用手法の開発にあたっているといわれています。

旧来型のアクティブ運用手法が苦境を迎える中、Two Sigmaをはじめ、その他多くの大手ヘッジファンドが機械学習を活用した運用手法から利益を得ようと鎬を削り始めました。この数年、数量的アプローチ、所謂クオンツ運用手法を得意としてきた運用者の中でも伝統的リスクファクター分析のみに頼らず、ビッグデータの活用と機械学習を導入しています。彼らは、従来型のファンダメンタル分析を得意とする運用者をアウトパフォームしており、クオンツ運用自体も新たなステージに入ったと思われます。現時点の運用手法開発の主流は、大量データの分析と機械学習による市場のパターン認識です。しかし、機械学習による大量データの解析とパターン認識だけでは金融市場から利益を獲得することは困難なようです。

前出のSigel氏自身もコメントしている通り、現時点で、AIが人と同様の判断力を持っているわけではなく、また、金融市場は非常に複雑であるために、人と同様の判断が可能になるのはまだまだ先のことになりそうです。今はまだ、運用者の経験値から導かれた運用手法に、大量のデータと機械学習を組合せた結果がファンドのパフォーマンスの決め手になっているため、運用成績は、過去のデータや運用手法の実績にとらわれる可能性が高いということです。したがって、過去に経験したことのないようなイベントが起きたり、市場環境が大きく変わった場合には、人の判断に比べて、むしろ大きな損失を被る可能性も否定できません。

現在、ヘッジファンドが取組んでいる課題は、AIが人の過去の運用手法や経験に縛られることなく、自ら学習し、人の手を借りずに市場局面を見極め、投資判断を行い、その結果、市場をアウトパフォームする運用成績を出すことです。今後も、市場には様々な波乱が想定されます。その波乱の中を生き抜くAI型ヘッジファンドがどのくらい出てくるのか、また、AI型ヘッジファンドの数、運用資産残高が増えた場合、それらが相互にどのような影響を及ぼすのか、この分野の競争は始まったばかりで、分からないことばかりです。私たちもヤフーとの提携を契機に、ビッグデータ、機械学習を活用するチャンスに恵まれた運用会社として、新しい運用手法の開発を続けて行きたいと考えています。