白木信一郎の「投資運用苦楽」

第263回 < 最近のヘッジファンドのリターン低迷について >

ヘッジファンドの代表的なインデックスである、ヘッジファンド・リサーチ社(HFR)の提供するHFRIを見ると、過去5年にわたり、ヘッジファンド戦略インデックスが、S&P500等の株価指数を下回っていることが分かります。株式インデックス対比での相対的リターン、あるいは絶対収益の低迷についてはいくつかの理由がありますが、主なものを挙げてみたいと思います。

【1】 好調な株式市場での相対リターンの低迷:ヘッジファンドが絶対収益を目指す戦略である以上、株式市場などが大幅に上昇する局面でも、ダウンサイドリスクに備えてヘッジを行います。例えば、株式ロングショート戦略であれば、買持ち部分の一部、または、全部をヘッジするために空売りを行うこともあります。したがって、株価が堅調に上昇する局面では、ヘッジファンドのリターンが株式指数に劣後することは当然ともいえます。この現象は、特に2010年、2012年、2013年、2014年にあてはまったといえます。

【2】 低金利、過剰資金の状況下での収益機会減少:金利系ヘッジファンド戦略や、裁定取引を中心とする戦略において、金利スプレッドや金利水準そのものが収益の源泉となることがあります。長引く低金利、欧州、日本で導入されたマイナス金利がいくつかのヘッジファンド戦略のリターンを削っています。

【3】 高止まりする手数料水準:運用管理報酬2%(年率)、成功報酬20%という、通常のインデックス運用と比較して、高水準の手数料体系が長らくヘッジファンド標準として根付いていました。結果として、過去10年にわたり、低水準のリターンに対して、割高な手数料を賦課してきたと言えます。この数年で、投資家からの手数料引き下げのプレッシャーも大きくなり、運用管理報酬1.7%、成功報酬17%程度へ低減しているという調査結果もありますが、まだ割高な水準と言えます。

【4】 ヘッジファンド数増加に伴う過当競争:数少ない収益の源泉を、多くのヘッジファンド運用者が大量な資金で奪い合うという構図が鮮明になりつつあります。結果として、裁定取引の機会は減少し、あるいはそれぞれの期待収益が低減しています。

【5】 ヘッジファンドの大型化:運用成績の優勝劣敗だけではなく、機関投資家からの要請に応じた顧客対応、法律、制度等の各種コンプライアンス対応、リスク管理ツールの開発等、増加し続けるコストに対応するために、ヘッジファンド運用会社も一社あたりの規模を大きくして対応せざるを得なくなっています。事実、投資家資金が対応のしっかりした大型運用者を求める中、小規模ファンドの生き残りが難しくなりました。一方、大型化したファンドは、小型ファンドに比べて機動力に劣ったり、流動性の観点から投資対象が限定されるため、リターンが低下する傾向があります。

【6】 投資家のヘッジファンド離れ:上述の結果として、ヘッジファンドのリターンが株式インデックスなどに比べて見劣りするため、投資家の中にはヘッジファンド投資を取りやめるところも出てきています。結果として、一部の流動性の低い投資対象に投資を行う戦略や個別ファンドにおいて、投資家からの解約が原因となる金融商品の価格下落の影響からリターンを落とすところも出てきています。

このように、ヘッジファンド戦略のリターン低迷には複数の要因が考えられますが、それらの多くは構造的な問題だと思います。したがって、ヘッジファンド・インデックスが表現するような、ヘッジファンド業界全体としての低リターン傾向は当面継続すると思っておいた方が良さそうです。勿論、個別戦略、ファンドの中には高いリターンを維持するところも数多く存在し、投資家の観点から無視できないアセットクラスであることには変わりがありません。特に、リターン低迷の要因を把握できれば、その問題点を抱えていないファンド―例えば、小規模を維持しているファンド、多くのヘッジファンドが注目してない投資機会に特化したファンドや、低金利に影響されにくい戦略を選定できれば、相対的に優れたリターンを得る可能性が高まると思われます。