白木信一郎の「投資運用苦楽」

第261回 < マイナス金利下のファミリーオフィスの運用について >

当社の運用するプライベートエクイティ関連のファンドにもご投資いただいている、海外のオーナー系ファミリーオフィスの方と定期的にお会いします。今回も東京に来訪された折にお話しする機会がありました。米国IT関連の起業に成功し、会社を売却した資金を元にファミリーオフィスを設立し、世界中の資産に投資されています。流動性の高い資産と、長期投資とのバランスをとって投資していますが、流動性の低い資産に関しては、特にファンドを通じて、各分野の専門家に委託するスタイルを取っています。

一般にファミリーオフィスは、かなり大きな金額になっても少人数で運用しているので、結果的に外部委託型が主流になる傾向があります。ファミリーオフィスでも金額の大きいところや経験値の高いところは、受託するファンド側も大手機関投資家と同等の扱いをしています。ファミリーオフィスのオーナー自身が成功した起業家であったり、金融のプロフェッショナルであることも多く、彼らは世界中の投資ファンドにかなりのネットワークを持ち、したがってそこから得られる情報を通じて市場についても精通しています。また、多くのファミリーオフィスに共通しているのは、とてもリスクに敏感でダウンサイドを嫌う慎重な運用に徹する点です。

しかし、ファミリーオフィスは、単年の期間損益に左右されることなく世代を超えた長期的資産形成を目指しているため、銀行などの機関投資家の考える短期のリスクヘッジやダウンサイド回避の方法はとらずに、より長期的な視点で運用を行う傾向があります。そんな運用をする彼らも、現在の日本や欧州におけるマイナス金利については頭を悩ませているようです。例えば先日、彼らがアジア拠点の大手不動産ファンド運用会社から出資額の4倍の融資がつく日本の不動産投資案件の提案を受けたとのことです。10億円の投資で50億円の物件ポートフォリオ、つまり、LTV(ローン・トゥ・バリュー)80%で運用でき、しかも融資にかかる金利は極めて低利で、投資利回りも二桁にのぼり、見た目には優良投資案件といえます。このような投資案件は、現在の日本と欧州に溢れています。しかし、これらの案件の多くは企業の利益成長を通じた本質的な価値向上や、日本の経済成長に関わる投資とは言い難いものです。

中央銀行による低金利政策の持続可能性と、中期的な資産価格高騰の可能性が高いと見れば、このような投資も当面は正当化されます。しかし、企業の利益成長や経済成長を伴う本質的な価値の向上を伴わない投資は、所謂バブル的な側面が強く、金利上昇や金融機関の与信能力不全が起きた場合には大きなダウンサイドを覚悟する必要があります。マイナス金利を使ってでもインフレターゲットを達成させたい政府は、人為的バブルを醸成しており、投資家に高レバレッジの不動産投資を推奨しているようにも見えます。

前述のファミリーオフィスのオーナーは、先週訪問した米国での状況も同じだったと教えてくれました。銀行は中小企業への融資にはきわめて消極的ですが、住宅融資については、それが投機色の強い2軒目、3軒目であったとしても、超が付くほど積極的だとのことです。結局、今回彼らは日本での不動産投資を見送ったようです。世界中を見渡して魅力的な投資機会が減っており、しばらくは様子見を続けるとのことでした。このように、「休むも相場」の格言を数年単位で実践できるのも、ファミリーオフィスならではのことかもしれません。