白木信一郎の「投資運用苦楽」

第250回 < クレジット投資への傾斜 >

マイナス金利の定着とともに、様々な問題が浮き彫りになってきました。例えば、投資信託をはじめとする投資ファンドは、常にいくらかの余裕資金を持っています。流動性の高いファンドの余裕資金は短期性の資金である必要があり、例えば金融機関同士が短期の資金の貸借を行うコール市場を活用して余裕資金を運用しています。しかし、今回のマイナス金利導入で、金融機関の余裕資金を運用する際、コール市場を使っては資金が目減りするような現象が起こります。個人投資家の行う預金も、引き出し手数料などを考えれば、資金は目減りする方向です。かといって、資金の性質上、流動性の低い資産や、リスクの高い株式などへそれらの資金を振り向けることは困難です。

そんな中、企業の発行する債券に注目が集まっています。国の借金である日本国債は既にマイナス金利ですし、たとえ買いたくても、発行されればすぐに日銀が買い集めてしまいます。しかも、日本の財政赤字は筋金入りですので、国債の信認は徐々に失われています。一方、バランスシートの非常に健全な企業は数多く存在し、それらの企業が成長のための資金需要をまかなうために、市中で社債を発行して資金調達を行うことがあります。この場合、投資家は発行された社債を購入することで、企業の財務状態が悪化したり、倒産に至らない限り、プラスの利回りを享受し、満期時には元本返済を受けることになります。そうなると、同じ債券ということで、投資家の中には国債から社債へと投資対象を乗換えていくところも増えてきます。

しかし、金融市場の歴史を振り返ると(というほど大げさに過去に遡らなくても)、クレジット市場では過去に様々な問題が起きています。それらの問題は、大きくは、金融危機等による流動性枯渇と急激な倒産確率上昇の可能性に起因します。1998年のロシア危機からのLTCM危機、2001年のITバブル崩壊、2008年のサブプライム後の金融危機時には、クレジットが大きく毀損し、投資家が損失を被りました。また、2001年には、当時の米国大手エネルギー商社エンロンが粉飾決算疑惑後、会社更生法を適用したことがきっかけとなりエンロン社の発行する社債(ユーロ円債など)が大幅に値下がりしたため、当時、エンロン債を保有していた日本のMMF等の債券型投資信託が元本割れを起こし、グローバルでも大きな問題となりました。2000年度には全米7位の売り上げを誇る有数の優良企業であり、当時マイクロソフト並みの格付けを得ていた同社の突然の破綻は、社債投資の脆弱さを浮き彫りにしたものでした。

そんな中、日本の状況にのみ着目すれば、民間セクターは豊富な資金を蓄え、バランスシートは健全です。また、2006年のライブドアや2011年のオリンパス、そして最近の東芝などの粉飾決算はあるものの、日本人の国民性もあり、企業経営の多くは健全といえると思います。成長戦略という観点からは、政府は企業に対して投資を活発化させるように訴えかけていますが、社債投資家からの観点からは、十分な余裕資金を持つ日本の優良企業が発行する社債は非常に魅力的な投資対象に見えると思います。マイナス金利の影響により、更に注目を集めているクレジット投資の分野ですが、今後の資金流入によってどのような変化が起こるかに注目していきたいと思います。