第249回 < 中国の不良債権増加の影響について >

最近、中国の経済動向について様々な投資家層と意見交換をしているうち、中国経済に対する見方が二分していることに気が付きます。マクロ経済を中心に見ているエコノミストの方は、中国経済は減速傾向にあるもののGDP成長率は当面6%台を堅持し、当面は持続的成長を続けると、やや強気にも聞こえるコメントをする傾向があります。かたや、ヘッジファンドをはじめとする運用者の観点からは、中国の不良債権増加に着目しており、大規模なクレジットクランチ(信用危機)の可能性に言及することがしばしばです。中国経済やマーケットに対する見方のギャップが顕著になっている理由について少し考えてみたいと思います。

中国経済を比較的堅調と見ているのは、主にエコノミストに代表されるマクロ経済分析を得意とする方々のようです。例えば、中国のGDP成長率の先行きを疑問視する声に対しては、これまでの重厚長大産業からサービス産業へのシフトが進み、個人消費が経済をけん引している様子が見られること。また、健全なバランスシートを背景とした政府による財政出動余力が大きいことから、GDP成長率が急減速するような事態や、経済のハードランディングシナリオは考えにくいとする見方が多いように感じます。これらの声には、中国経済の内情を知らず、一部の報道だけをみて、いたずらに中国発の世界景気不安を煽るような論調を戒めている側面もあるように感じます。

一方、ヘッジファンド運用者をはじめ一部の投資家の間では、中国の不良債権問題がクローズアップされてきています。中国の銀行業監督管理委員会が公表している数値によれば、2015年末の不良債権残高は、前年末比51.2%増加し、不良債権比率が1.7%に上昇しています。但し、公式統計数値では不良債権の認識が甘いとの指摘もあり、投資家は、数値を額面通りには受け取っていないようです。国際決済銀行(BIS)によれば、中国の民間債務(銀行を除く)が日本のバブル末期を超えGDP比205%まで高まっています。これまでの過剰投資、過剰債務の影響から、景気が低迷する過程で倒産率が上昇する等のきっかけがあれば、銀行の貸出姿勢も変化せざるを得ず、結果として日本のバブル崩壊後のような雪だるま式な不良債権増加が連想されます。中国政府は金融緩和と財政支出によって不良債権問題の鎮静化を図ると思われますが、どこまで支えられるかは分からず、ダウンサイドリスクの方が高い、とみているのが一部の投資家ということになります。

個人的には、中国経済の規模の大きさから考えても、足下で、中国の不良債権問題が表面化するリスクは低いと考えています。日本の財政赤字問題にも似ており、テーマとしては説得力があるものの、表面化までに時間がかかる問題の一つと思えます。日本やアメリカの歴史を振り返れば、不良債権問題は不動産担保融資の破綻をきっかけとしてスパイラル的に悪化する傾向があります。今年に入って、不動産取引税軽減策の影響などもあり、更に上昇している上海等の不動産価格は10年間で約4倍になったと言われています。一方、中国の賃金絶対値や上昇率を見れば、不動産価格は正当化できない水準にあると言われてきました。周期的にクローズアップされる中国発の金融危機リスクですが、今回投資家間で取り上げられている不良債権急増リスクについても、不動産価格との連動性が高いとみています。日本と同じ道を辿るのか、違う経路を辿り、異なる結末を迎えるのか、現時点で明確な答えは持っていませんが、注目していきたいと思います。