白木信一郎の「投資運用苦楽」

第246回 < マイナス金利下の投資行動 >

1月29日に、日銀がマイナス金利を導入しました。1年前の2015年1月22日にスイス国立銀行が金利マイナス0.25%を適用していますから、目新しい概念ではありませんが、それでも、このタイミングでのアナウンスメントに多くの市場参加者は驚いたことだと思います。ビックリした市場参加者は、一旦、円安、株高と素直な反応を示しました。株式市場でも、銀行株売り、不動産株買いのような分かりやすい行動が見られました。しかし、その後1週間の市場動向を見てみると、必ずしも日銀の期待通りに市場が反応しているようには思われません。このような状況下、我々はどのような投資行動をとるべきでしょうか。幾つかのステップで考えてみたいと思います。

なぜ、マイナス金利なのでしょうか。日銀、あるいは政府の意向は、インフレターゲット2%の達成をするために、出来ることは何でもするというものです。政府、日銀がインフレ環境を達成したいのは、いつかは破綻すると思われる拡張し続ける財政赤字を防ぐ手段が限られているからです。現在、政府は日銀を通じ、市場実質利子率(=名目金利―予想インフレ率)を何とか大幅マイナスに引下げ、インフレ期待による景気刺激、インフレ後の税収拡大による財政改善を、政府の利払い負担増を抑えられる程度の低金利下で実現しようとしています。この場合、効果がありそうで、手を付けやすい究極の金融緩和であるマイナス金利導入を決断するに至ったものと思われます。

しかし、今回のマイナス金利導入は、既存金融機関にとって厳しい収益環境をもたらすことになり、日本経済にとって必ずしもプラスに働かない側面があります。ましてや、銀行貸出を通じて民間需要を押し上げようとする目的と相反する部分があります。また、欧州で見られるように、マイナス金利は期待ほどインフレ率を押し上げない可能性も高く、今回は円安誘導にも限界がありそうです。この場合、期待された効果が得られず、金融機関の体力を削ることで、却って市場のリスク許容度を押し下げる負の部分だけが強調されてしまう状況も想定されます。現時点では、ポール・クルーグマンが昨年10月にニューヨークタイムズ紙に掲載したコラムで述懐しているように、彼が提唱し、実質的に日本が採用した「リフレ政策」では、日本の潜在成長率の低さを過小評価しており、市場実質利子率を十分に下げることが出来ず、インフレを喚起できずに、したがって民間需要を十分に刺激できていません。

更に、投資家の立場からは、ゼロ、もしくはマイナス金利の金融商品へ投資を行うインセンティブは働かないので、個人であれば資産防衛の観点からタンス預金が増加することも考えられます。また、マイナス金利導入に伴うMRF、MMFの新規資金受入れ凍結により、安定運用を好む大層の投資家資金が行き場を無くした場合、かつて見られたような、見た目は預金代替商品であっても、実際には流動性やレバレッジ等に問題のある金融商品が流行する、モラルハザード的なリスクも考えられます。このような状況下では、投資家の選定眼がこれまで以上に試されることになります。さらにリフレ政策の影響で局所的に発生する不動産等の資産バブルにも注意が必要です。今日、我々が正しい投資判断を行うためには、各国経済が低成長であり、自然利子率が低いという現実を受入れ、各国中央銀行の意図及び、提供される金融商品のリスク等に対する正しい理解が求められていると考えています。