白木信一郎の「投資運用苦楽」

第333回 < 2019年10月号金融システムレポートを読んで >

2019年10月に定例の金融システムレポートが発表されました。過去数年にわたり、このコラムでは半年毎に日本銀行が発行する金融システムレポートをフォローしてきています。金融市場及び金融機関の状況を定期的に網羅している本レポートは、非常に勉強になる資料で、いつも興味深く読んでいます。今回のレポートでは、特に地方金融機関に対するかなり踏み込んだ提言がなされている点が特徴でした。

経営課題として、「収益力の向上」、「リスク管理・経営管理の強化」、「デジタライゼーションへの対応」、「適切な資本政策の実施」という4点を解りやすく掲げた上で、現在の市場動向を踏まえた上で具体的な提言に展開しています。現状認識として、金融市場全体は緩和的な金融環境の継続に伴い、資産価格の上方への乖離が見られるものの比較的安定していると判じた上で、国内金融機関の不動産賃貸業を中心とする中小企業への貸出の伸びが、低減しつつも継続している状況を報告しています。また、大手金融機関のグローバル化への転換を、数値を用いて表しつつ、貸出に占める大型M&Aへのファイナンス(レバレッジ・ローン)の増加について触れています。

日本の金融機関の全体像としては、保有有価証券における国内資産、特に国債、株式の残高が継続的に減少している一方、投資信託を経由したものを含む外債残高は高水準で推移しているようです。貸出の増加の内訳としては、引き続き不動産に関連する融資が大半を占めているように見えますが、その増加幅は、昨今のアパートローン経営への先行き不安や、スルガ銀行の不祥事等を受けて減少傾向にあるようです。日銀では、これらの金融機関の活動と経済環境を見比べて、「金融活動指標(ヒートマップ)」を用いてバブル期のような金融活動の過熱感や反対に停滞感がないかを分析しています。そのヒートマップを見ると、現在、過熱感が見られるのは「不動産業向けの貸出」についてのみであり、その他の分野では過熱感は見られません。しかし、レポート内では、金融機関が相対的に信用力の低い貸出先を増やしており、結果として、「低採算先貸出」が増加傾向にあるとも分析しています。

今回のレポートを見て、個人的に気になった点の一つは、地域金融機関における「外貨インパクトローン」の残高が過去5年で倍以上、10年では7倍程度増加しているという調査値です。通常、国内企業は当然に円建てで借入れを行います。「外貨インパクトローン」は、国内企業が敢えて外貨建ての融資を受けるケースです。これは、地域金融機関の取引先が国内で外貨を調達する必要があることを示しています。私が90年代前半に銀行に勤めていたころは、このような外貨調達を(敢えて国内で)行う企業は少なく、銀行側が比較的厚めのスプレッドや、為替手数料など、高い収益を稼げる外貨建て融資を積極的に営業した結果、大幅な円安相場においては企業が大きな損失を蒙った記憶があります。

日銀、金融庁等が特に地域金融機関を対象として経営課題を掲げ、取引先企業の課題解決型ビジネス、資産形成ビジネスへの転換や経営効率の改善、保有有価証券のリスク管理能力の強化、デジタライゼーションへの適応、適正な自己資本水準を維持しながらの資本政策の実施など、かなり踏み込んだ内容のレポートを出していることに、当局の危機感の表れを感じます。また、マイナス金利政策、イールドカーブコントロールを通じて景気浮揚を図りつつ、その金融政策が既存の銀行をはじめとする金融機関のビジネスモデルの収益を圧迫していると自覚しているからこそ、ここまで詳細なビジネスモデルの転換に関わる内容まで例示しているようにも思えます。マイナス金利は当面継続され、決済や資産運用業務にはブロックチェーンなどの新しいテクノロジーの登場で金融機関以外の新規参入が増え、人口が減少する日本でのオーバーバンキング状態は加速していきます。このような金融機関にとって厳しい環境下、金融システムを健全に維持しつつ、個別の金融機関にまで目配りをする当局の苦悩もこのレポートからは読み取れました。