白木信一郎の「投資運用苦楽」

第334回 < アート投資の世界 >

先日、アート関連のイベントに参加した際に、アジアにおけるアーティストやコレクターの方々とお話しする機会がありました。私の拙い知識では、価値のある芸術品とは、宝飾品、絵画、彫刻などの中で、特に歴史を経て評価の高まったものであるとの認識でした。そして、世界の「価値のある芸術品」と問われれば、ダビンチの描いた「モナリザ」であり、ピカソの「ゲルニカ」であり、あるいはアンディ・ウォーフォールの作品等を想像するわけです。日本の国宝として登録されているような寺社等の建造物、彫刻、陶磁器、水墨画等も芸術品としてあげられるかもしれません。

しかし、あらためて、今回のようなイベントに参加してお話を聞くと、ひとくちにアートと言っても、その領域は広大で、伝統的な絵画、彫刻、写真以外にも、最近ではインタラクティブ・アートといわれる、観客の参加を前提とした芸術なども含まれます。したがって、歴史を重ねて骨董的な価値を持つものだけでなく、観る場所と時間を限定することで価値を最大化する様な、イベントと組み合わされてはじめて価値を持つこともある芸術も存在します。また、観る人々の主観を反映して、芸術品の評価は上下することになります。たとえば、画家の生前にはまったく評価されなかった絵画が、没後に高い評価を得る、「ゴッホ」のようなケースは多く見られます。

アートへの投資は、世界でも成長著しい領域と聞いています。しかし、多岐にわたり、かつ、変化し続ける分野をもつ「芸術」、しかも、時代毎の人々の主観によって相対的に価値が変化しえる「芸術品」を投資の対象、さらには、資産運用の対象としてみることは、かなりの難しさがあるように感じています。今回のイベント時に、日本を代表するインタラクティブ・アートのアーティストの方がお話されていたのは、その時、その場にあって、鑑賞者の参加を前提としてはじめて芸術品としての価値を発揮する、たとえば巨大なオブジェを作成するような場合、資金調達に苦労し、さらにはその後の巨大オブジェの使い道(キャピタライズの方法を含めて)にも苦労するというお話がありました。

このように考えると、アート投資は、資産運用の一環で投資収益を考えるような「インベスター」よりも、収益率を度外視できる「スポンサー」、あるいは「パトロン」というような文化的な素養のある資金の出し手に担ってもらうべき領域のような気がします。もっとも、英語の「インベスト」は、ベスト(語源はチョッキを示すVest)にイン(入れる)するという意味合いを持っているそうで、日本語での投資(資産を投げる)とはだいぶニュアンスが異なることを考えると、「インベスト」にコレクター的な芸術品の購入を含んでもよいのかもしれません。

参加者のお一方は、プレゼンテーションの中で、日本のアートに関するエコシステムは他国に比べても複雑である、とコメントしていました。日本の芸術品の保有・展覧・売買のシステムは複雑で、公営の美術館や画廊、個人コレクター等が入り乱れて芸術品のデータベースも整備されにくいそうです。素人では、日本のアート業界の全体像は想像することも出来ません。しかし、投資、資産運用の裾野が拡大を続け、実物資産に及んでいる現在、人間の感性に訴えかける「資産」である「芸術品」にも資金が流れ込むのは必然なのかもしれません。専門外の分野ですが、機会があれば勉強をしてみたいと考えています。