白木信一郎の「投資運用苦楽」

第341回 < コロナショックと今後の相場環境 >

前回のコラム執筆時から2週間しか経っていませんが、2020年3月9日のマーケットは早朝から大荒れの展開となりました。為替が急速な円高に進み、原油価格が30%の下落と1991年の湾岸戦争時以来の下落率を記録し、そして、株式市場の下落が続きました。米国では、3月3日にFEDが金利の誘導目標を0.5%引き下げたことや、前週末に発表された2月の米雇用統計が堅調な数値となったことから、多少下方硬直性のある相場になることも期待されましたが、米国金利のさらなる低下が円高へのトリガーを一気に引いたこともあり、日本の株式市場は日経平均が9日に1050.99円下落したのに続き10日も前場から大きく下落し、2019年1月以来の安値を付けています。9日の米国株式市場はNYダウ平均株価が2013.76ドル(7.79%)下落し、下落幅としては過去最大、1日の下落率としてはサブプライム問題の混乱時に匹敵する事態となっています。

今回の市場の混乱は、金融危機を併発した金融市場から発したものではなく、感染病の拡大とそれを防止するためのグローバル経済の収縮という、実体経済に直接影響のある事象が原因となっています。宿泊業、飲食業の売り上げが大きな打撃を受けたことに代表される消費の落ちこみ、2月の中国における建機の稼働率が3割低下するなどの製造業に影響を与えるような事象など、全世界にマイナスの影響が広がりつつあります。

もっとも、上述の事柄は経済に対する短期的なインパクトとしては当然大きいものですが、新型コロナウィルスの感染が落ち着けば回復する一過性の事象と思われます。しかし、今回の市場混乱の原因を新型コロナウィルス問題だけと特定することは危険のように思えます。例えば、原油価格の下落は、新型コロナウィルス問題によって助長された可能性はありますが、もとはサウジアラビアの政局混乱とロシアなどとの原油協調減産交渉の決裂とサウジアラビア単独の原油価格下げといった、一過性とは言えない問題が背景にあります。また、足下で起きているクレジット市場の変調(クレジットスプレッドの拡大)は、低格付けの会社がエネルギー関連会社に多いことから、原油価格の下落が負債の大きい大手エネルギー会社のデフォルトを想起させたことが原因になっていますし、さらにクレジット市場混乱の一因は、今回のコロナ問題とは全く関係のない3月7日に起きた中東レバノンの外貨建て国債のデフォルトにもあったと思われます。

このように、足下の市場の混乱の原因を新型ウィルス問題にだけ求めていると、今後の相場環境を見誤る可能性があると考えています。例えば、日本の銀行の貸倒引当金は、足下徐々に積み立てられているとはいえ、歴史的には低水準にあります。今回のコロナウィルス問題が最後の一押しとなって、赤字や資金繰りに困窮する中小企業が急増した場合、金融機関は貸倒引当金の積み立てを一気に増加させる必要が出るかもしれません。その場合、銀行の短期的な業務純益の押し下げ要因となるだけではなく、最低限の自己資本比率を維持できない銀行への公的資金投入や金融機関同士の統合の加速などに結び付く可能性も出てきます。そのうえ、銀行はこれまで慢性的な貸出先不足から、有価証券投資による収益に頼る損益構造となっています。株式やCLOなどのクレジット関連商品の大幅値下がりによる損失の影響がこれから出てくる可能性があります。

これまでのコラムでも述べてきたように、一つの事象に端を発した金融市場の動揺が、複数の問題を誘発した場合には金融市場の混乱は長引く傾向にあります。また、この数年、これまで起きた金融危機の直前に繰り返し見られてきた「キャリー取引の増加(オプションの売り戦略や低格付け債への投資)」、「レバレッジの増加」、「低流動性資産に対する投資の増加」が同時に観測されてきた中で起きたコロナショックは、市場にとっては長引く大きなインパクトを与えてしまう可能性があります。引き続き、落ち着かない環境が続くものと思われますが、これまで同様、注意深く市場を注視しながら投資を継続していきます。