白木信一郎の「投資運用苦楽」

第342回  REIT市場の変動について

安定した配当の期待できる投資対象として人気のあった、J-REIT(上場不動産投資信託)の価格が急落しています。J-REIT指数を見ると、価格がピークを付けた2019年11月5日の高値2257.08から、2020年3月19日の1145.53の直近底値まで実に約49%の下落率となっています。トピックス株価指数は直近高値の2020年1月20日の1744.16から直近底値の2020年3月16日の1236.34へと約29%下落していますが、J-REIT指数の下落率が株価平均の下落率を大幅に上回っていることがわかります。

コロナショックによる問題の被害を直接受けるのは、インバウンド顧客の大幅減少が見込まれるホテルリートです。足下、ホテルの空室率が大幅に上昇しているニュースも見られます。将来的な賃料収入の減少を織り込んで足下のホテルリートの価格は指数の平均よりも大幅な下落を見せており、ピークからは70%以上の価格下落が見られる銘柄もあります。

しかし、住居、オフィス、物流関連の不動産施設に投資を行っているREIT銘柄もホテルリートほどではないまでも、株価平均よりも下落率が大きくなっています。この間に地価が大幅下落したというニュースは出ていませんし、足下の賃料収入はむしろ上昇傾向にあるという話も出ています。6か月以内で、ファンダメンタルに大きな変化がない中、価格が半分に下がってしまうというのはいささか異常な状況に感じられます。なぜ、これほど株価とJ-REITの下落率の間に乖離が見られるのでしょうか。一部の新聞報道にも見られるように、これは機関投資家が保有していたJ-REITを今回の市場急落の過程で大量に売却したことが背景にあると思われます。

J-REITは保有不動産の賃料収入が原資となる配当利回りが魅力の投資商品で、個人投資家にも人気がありました。同様に、マイナス金利によって国債への投資が制限された金融機関にとっても、分配金を利回りと見なすと投資元本に対して3%以上の年間リターンを期待できるREITは投資しやすい商品となっていました。2008年のリーマンショック時に約70%下落したことがあるものの、過去5年程度のリスク・リターンを参考にするならば、金融機関にとっても投資妙味のある投資商品であったといえます。

今回、金融機関が2020年3月末の年次決算期末を控えて、過去に投資して含み益のあったJ-REITを決算対策で売却して利益を確定しようとしていた矢先に、むしろ、設定していた15-20%程度の損失の限界点を超えてしまったことで、ロスカットの売却に踏み切らざるを得なくなり、さらに多数の金融機関による売却の連鎖が起こってしまったことが今回の大幅下落の原因ではないかと考えられます。

足下の価格下落で、分配金利回りが軒並み高くなり、利回りが10%を超える銘柄も見られます。また、保有不動産の資産価格をもとに算出されるNAV(純資産)倍率も通常時は1.2程度のものが、足下すべての銘柄で1を割り込んでいる状況です。このレベルでは、今後の不動産市況の大幅な悪化によって、賃料収入が減少し、不動産価格が下落する状況を織り込んでいるように見えます。したがって、不動産価格や賃料収入に大きな変化が生じず、目先の売却が出尽くしてしまえば、J-REIT価格は需給の改善とともに徐々に回復することが見込まれます。

今回のような資産価格の逆回転が起こる典型的な事例は、多くの投資家がリスクを軽視した利回り目的の投資(キャリー取引)を、需給が一方向に傾きやすい資産(流動性の制約のある資産)に対して行っていた場合に起きやすくなります。市場が更に混乱する過程では、ここにレバレッジの逆回転が加わり、それが相場急落の最終局面を誘発することになります。現在、コロナショック対策として各中央銀行がほとんど無制限と思えるような資金供給を行っているのも、信用収縮によるレバレッジの逆回転を抑制するための方策です。これらの政策が奏功するのか、あるいは問題の規模が大きくなりすぎるなど、対策が効果を発揮できない状況が出てくるのか、予断を持たずに市場を注視していきたいと思います。