第199回  < 中国の理財商品について >

最近何かと話題になっている中国の理財商品について、専門家と話す機会がありました。理財商品自体は、中国の金融機関が主に個人投資家向けに販売している金融商品ですので、私たちが日々調査しているヘッジファンド運用会社や、機関投資家が直接投資する対象とはなっていません。その点では、米国のサブプライムローン関連の商品が証券化されて様々な機関投資家が保有し、価格下落が投資銀行破綻を招き、全世界に影響を与えたケースとは異なると思われます。しかし、理財商品やその中でも特にリスクが高いと思われる信託商品の規模は非常に大きく、200兆円以上の残高があるといわれています。したがって、現在メディアを騒がせているように、大規模なデフォルトが起きるような事態になれば、当然、中国国内投資家に限らず、グローバルに大きなダメージを与えることになります。

現時点では、専門家の中には、米国のサブプライム問題との比較から、理財商品がデフォルトをする際の影響について、比較的楽観視している論調が多く見られます。一方、多くのメディアは、面白おかしくこの問題を取り上げて、中国のバブル崩壊について言及しています。本コラムでは、理財商品の実態について触れた後、問題の行方と影響について筆者なりの考察を加えてみたいと思います。

「理財商品」とは、中国国内銀行が発行している商品であり、投資対象は、比較的安全な「預金」「外貨」「債券」が多くなっています。もちろん、「株式」「商品」「銀行間融資」等も含まれてはいますが、健全な金融商品といってもよいのではないかと思います。しかし、理財商品に組込まれている投資対象の中に「信託商品(集合資金信託)」があります。中国の「信託商品」は、日本の投資信託と似た形態であり、この投資対象は多岐にわたります。この中には、不動産企業をはじめとする各種企業への融資、あるいは株式、債券への投資が含まれており、今回、デフォルト騒ぎを引き起こしているものの大半がこれらの商品となっています。

これらの信託商品の償還期間は2-3年が中心と言われており、特に、2014年内に償還を迎える商品が数多くあるようです。例えば、不動産関連企業に投資を行っている信託商品のうち、10兆円以上が年内に償還を迎える予定となっています。仮に、これらの商品の中からデフォルトが起こるようなことがあれば、不動産価格の下落につながり、また、個人投資家の投資意欲を冷え込ませる結果になることが予想されます。すでに、償還を迎えた商品の大幅な損失や小規模デフォルトの記事や噂が出始めている状況ですが、これらの大半は、中国国内のメディアによる無作為な抽出の結果であり、当局による正式発表は見られないようです。当局は、事実の把握と、事態の収拾を企図しているようですが、かなり困難なように思えます。

1月末に中誠信託の約500億円規模の商品にデフォルト懸念が出た際は、政府がサポートをしていると噂される「謎の投資家」が出現し、問題は回避されました。しかし、今後次々に期限を迎える商品の中で、問題となる商品すべてを「謎の投資家」が買い続けることは困難だと思われます。今後、数か月の間に、デフォルトが現実のものになり、レバレッジ低下による不動産価格及びその他のリスク資産価格の下落が起き、先進国を含めた株価調整がある程度起こるとのシナリオの想定は念頭に置いて、市場を見ていきたいと思います。