白木信一郎の「投資運用苦楽」

第192回  < ヘッジファンドの最近の動向について >

世界的に株式市場が堅調です。昨年末から今年前半にかけて日本株の上昇に目を奪われがちでしたが、米国株式市場は高値を更新し、出遅れていた欧州株式や新興国株式市場にも資金が流入しているようです。株式を中心としたリスク資産に万遍なく資金が流入し、各市場の流動性も増加しています。中には、コモディティ市場のように蚊帳の外に置かれてしまった市場もありますが、このような状態が続けば、遅かれ早かれコモディティ市場にも資金が流れ込みそうな勢いがみられます。

債券市場から株式市場に資金がシフトする初期には流動性の高い大型株の上昇が起こり、徐々に先進国の中小型株市場へ資金が流れ込み、さらにその状態が続くと新興国株式の上昇につながるのは、過去の過剰流動性相場の一貫した特徴ともいえます。ヘッジファンド業界においても、2009年以降の運用成績上位ファンドには、不良債権投資ファンドや社債などのハイイールドものに投資するファンドが連なっていましたが、昨年後半以降は、株式関連ファンドにその座を譲り渡しています。2013年10月迄の各ヘッジファンド運用戦略の成績を見ると、その状況が顕著に出ています。したがって、投資家の資金フローも株式関連戦略に向かいやすくなっています。

そんな中、足下の株式戦略関連のヘッジファンドの投資状況を少し詳しく見てみるといくつかの傾向が見て取れます。2013年の3月から6月にかけて、特にポジションを膨らませてきた運用者が多く見られたのとは対照的に、10月に好調な収益を計上しているファンドであっても、ポジション量が徐々に落ちているように見えます。特に、個別銘柄の買い持ち額から売り持ち額を差し引いた、所謂ネットポジションについて、今年前半のピークの4-5月時点と比較すると半減とまでは言わないまでも、相当絞った状態になっているようです。

足下の状況に対して、筆者なりの推測を加えてみます。まず、株式関連のヘッジファンド戦略の運用者は、2013年の10月末までには絶対値で見ても、過去比で見てもまずまず十分な運用成績を収めたところが多かったと思われます。多くのヘッジファンド投資家は、月次、年次の運用成績を手掛かりとして、ヘッジファンドへの投資判断を下す傾向があります。また、ヘッジファンドの多くが企業と同じ12月やその前の10-11月に決算期を迎えます。運用者が成功報酬を確定する意味でも、ヘッジファンドは、年末にかけてリスク量を抑える習性があることは知られています。したがって、現在のヘッジファンドのリスク量低下の理由は運用者の利益確定ということで一部は説明することができます。

更に、好調な株式市場には個人マネーや機関投資家の新規資金も流入していることから、市場に歪みが生じやすい状況になっていると思われます。例えば、個人投資家が好む銘柄が集中する傾向があることから、本質的価値を無視した割高株が出やすい環境になっていると推測できます。このような環境はヘッジファンド運用者にとっては好機ともいえる状況となります。つまり、割高株が豊富に存在する環境では、ショート銘柄の候補が多くなり、結果として買い持ち額から売り持ち額を差し引いたネットポジションを低めに抑えられながら、高い収益率をあげやすい状態となっている可能性があります。

最後に、過剰流動性の後半によくみられるような、新興国株式市場や流動性に制約のある中小型株市場に資金が流入する相場環境では、ヘッジファンドがこの流れに追随するケースが多くみられます。しかし、流動性の十分高い先進国の大型株式と比較すれば、流動性リスクや価格変動リスクが高くなるため、保有できるポジション量にも制約が生じます。したがって、大型株式に限定したロングショート戦略と比較すれば、運用者は中小型株式や新興国株式を中心とした戦略のポジション量を小さく抑える傾向にあります。

上述の3つの理由によって、好調な運用成績にも関わらずヘッジファンドのポジションサイズの縮小がみられる現状は、ヘッジファンドの運用成績が好調な時期に見られる傾向の一つです。