白木信一郎の「投資運用苦楽」

第193回  < フロンティア市場への投資について >

長引く金融緩和によって、世界中にあふれる過剰流動性資金は、低金利と限られた投資対象という制約の中、次の投資先を求めて動いています。その中に、第二の新興国市場ともいうべき、フロンティア市場があげられます。中国、インド、ブラジル等の国々は、すでに急成長のステージを終え市場の成熟期を迎える一方、中東のカタール、クウェートやアフリカではナイジェリア、ケニア、中南米ではコロンビア、アジアではバングラディッシュ、ベトナム、さらに、東欧のルーマニア、ブルガリア等の国々を構成国とするフロンティア市場指数が、徐々に投資信託やETFの形態で投資家に提供され始めています。これらの国の中には、高いGDP成長率を続けているところや、金融市場が整備され始めたばかりのところが多く、高い利回りを期待できる投資対象が含まれています。例えば、これまで、銀行窓口がなく、口座を持たない人々がほとんどであった地域に、銀行ができはじめ、定職を持ち始めた人々が給料をもらうことで、銀行に口座を開く。このような当たり前のことが、まさに今始まっている国もあります。フロンティア市場の魅力の一つは、その地域の多様性にもあります。中東、アフリカ、アジア、中南米、東欧などに点在するこれらの国々には、それぞれの成長ストーリーがあり、相互の成長への依存性が少ないことから、複数の国々の成長を享受しながら、高い分散投資効果も期待できるというメリットもあります。

一方、まだ未整備の市場であることから、市場の流動性や、対象国で投資可能となる企業の数は非常に限られています。また、政情不安などの問題を抱える国々も多いことから、様々なリスクを内包している投資対象といえます。1997年にアジア通貨危機が起きるまでの数年間、アジアで空前の投資ブームが起き、香港、タイ、インドネシア、台湾等の国々に急速に資金が流れ込んだ結果、バブルが発生し、通貨危機後の少なくとも5年間はその後遺症に悩まされました。今回始まりつつあるフロンティア市場への投資ブームも、同様のサイクルを経る可能性も十分にあります。特に、指数に含まれているアフリカの国々やアジアの国々の中には、いまだに政情不安が残る国もあり、また、国営企業が上場していることから、政府の方針や変化が直接企業価値に影響を与えるケースもあります。

しかし、高成長、変革、高い利回りという魅力はこれから多くの個人投資家、機関投資家の資金を惹きつけることになると思われます。事実、私たちが日々面談を行うヘッジファンド運用者の中にも、いち早くこれらの国々への投資を増やし始めているところも見られます。これまでの投資バブルの醸成と崩壊から学ぶとすれば、魅力的なフロンティア市場への参入時の注意点はいくつかあると思います。私たちは、フロンティア市場の対象国が非常に分散していることから、分散効果のメリットを十分に享受している、つまり、リスクヘッジができていると考えがちですが、金融危機などの問題が起きた場合には、これらの国々の企業価値の動向は、かなり高い相関を示すことになります。皮肉なことに、多くの投資家がフロンティア市場を一つの投資対象として同じバスケットに入れることで、これまでバラバラに動いていた市場が似たような動きをすることになります。思っていた分散効果が効かないことが予想されることから、ポートフォリオをヘッジするための別の方法を考えておく必要があります。

例えば、フロンティア市場の投資対象国に多くの中東諸国銘柄が採用されていることから、政情不安が原油価格に影響を及ぼす可能性が想定されます。したがって、ヘッジ手段としては、原油先物を買い持ちしておくことで、保有リスクをヘッジできる可能性があります。また、フロンティア市場の流動性枯渇が起きるような世界的なイベントが起きる場合には、あらためて米国債券や金に注目が移る可能性も考えられるため、フロンティア市場に投資をする際にはこれらの資産を保有しておくことがヘッジ手段として有効になる可能性があります。一般的に、ヘッジファンドによるヘッジ手段は、フロンティア市場の株式銘柄の買い持ちに対して、多少流動性が高く、似たような値動きを行う株式、例えば新興国株式や、同業種の先進国株式を売り持つケースが考えられます。しかし、大きな金融危機時には、このようなヘッジ手段が効かずに、むしろ損失を拡大するケースが多々みられます。新興国銘柄を買い持ちし、先進国銘柄でヘッジを行っていたヘッジファンドで、97年から98年の金融危機を乗り越えられたヘッジファンドが非常に少なかったことからも、同様の事象が起こる可能性を十分に念頭に置いた運用手法をとることが肝要かと考えています。